「それで、どうなった?」

「トイレから戻ってきた時、三好には記憶がありませんでした。自分が口説いたはずの女の記憶が、ぽっかりと抜け落ちていたのです」
と田崎が言った。
「貴方の仕業ですね?」

結城は窓の外を見ていた。背後には田崎が立っている。

「何故俺を疑う?その口説いた女が怪しいじゃないか」

「女は勿論共犯です。三好好みの美人で派手な金持ち風の女。しかも得意の<ブラック・ジャック>に興じていた。部屋の中にはよく見るとほかにも、それぞれ我々の好みを知り尽くしたような7人の女たちが待機していた。我々があの店に出入りしていることは、貴方はよくご存知だ」

「だが、それだけでは証拠にならん」
と結城は言った。

「貴方がトイレの中で三好に何をしたかなんて、物理的な証拠はありませんが」
田崎は言った。
「貴方が三好を放っておくはずはないという心理的な証拠ならあります」

「買いかぶられたものだな」
結城はふっと短く笑った。

「それに、戻ってきた時の三好からは、微かに・・・貴方の匂いがしました」
満たされた猫のような三好の眼の輝き。濡れて、淵から欲望が零れていた。

「それこそ、心理的な誤解だろう」
結城は言った。

「三好はその女に薬でも飲まされ、記憶が飛んだ、それだけの話だ。何も俺を引き合いに出すことはない。何事も、なかったのだ」

結城は最後まで振り返らなかった。





inserted by FC2 system