学校に戻ると、入り口に田崎がいた。
「送っていったのか」
腕を組んだまま、壁にもたれている。暗くて表情は読めない。
「あ、あぁ」
無意識に唇を手の甲で拭い、三好は視線をそらした。
「君の好みのタイプがああいうタイプだとは知らなかったよ」
「何の話だ?授業の一環だよ」
「へぇ?俺も受けたかったな、君だけの特別授業」
「・・・結城さんには言うなよ」
「なぜ?言われたら困る?」
「・・・・・・」
三好は田崎のこういうところが苦手だ。常に足元を見る。
「じゃあ、交換条件だ」
「交換条件?」
「今夜、久しぶりに皆で街に出るんだ。君は付き合いが悪いから、断るだろうって話してたんだけど、君も行くだろう?」
なんだ、そんなことか。
三好は幾分ほっとして、
「ジゴロの実践か・・・いいだろう」
街の外れにある娯楽場、<シェイクスピア>。
カジノとレストランが一体となった、新感覚のオトナの社交場である。
「正直物足りなかったよ。俺の知らない知識はなかった」
と甘利。
「その割には熱心にメモしてたんじゃないか」
神永がからかう。
「メモなんてとるわけないだろ」
と甘利。
「さぁ、とりあえず、誰が行く?」
と田崎。
「俺は高みの見物をさせてもらおう」
と小田切。
「あ、ずるーい。じゃあ、僕も」
と実井。
「俺が行くよ」
神永が立候補した。
「待て、三好に行かせろ」
と田崎。
「え?僕は・・・」
三好は驚いて、田崎を見ると、田崎は自分の唇を人差し指で示した。
「・・・・・・行けばいーんだろ?」
三好は立ち上がり、帽子を目深に被ると、女性客のいるほうへと歩いていった。