狭い部屋をさらに狭くしていた盗聴器がなくなると、部屋はガランと殺風景だ。
だがそれがなんだ。
俺は久しぶりに部屋の掃除をすることにした。窓を開けて床を掃き、雑巾がけをする。

俺は綺麗好きだ。というより、ここの連中はみんな、自分の周りが片付いていないことを嫌う。仕事に差し支えるからだ。
ほんのすこしの埃から、綻びが生じることもある。だから、床を拭いたあとも、あまり雑巾は汚れていなかった。

満足した。夕飯でも食いに行くか。
あ、その前に、仕掛けた盗聴器の録れ高を・・・。と振り返り、思わず舌打ちをした。
間抜けだ。
俺は、囚われないぞ。
イラッとしながら部屋を出た。

「波多野」
三好が珍しく話しかけてきた。
「何だ?」
「さっきこれ、拾ったんだけど・・・」
そういって三好が差し出したのは、俺がこないだ結城さんの部屋に仕掛けた盗聴器だ。
「あ〜。やっぱ見つかったかぁ〜。さすが結城さんだなぁ」
「結城さんの部屋に仕掛けたのか?」
「あぁ、でもこんなすぐに見つかるなんて」
「結城さんの部屋に仕掛けられただけでも大したもんだよ」
三好が眉を下げて言う。いいやつだ。
「でも、俺の部屋のこれも返しとくよ」
そういってポケットからもうひとつの盗聴器を差し出された。
くそ。

三好が立ち去るのを見送ってから、俺はこれで16個目になる盗聴器を眺めて考えた。
もっと自然に盗聴できる場所はないものか。
部屋にはいると気づかれるなら、本人に持って入らせるようにはできないか。結城さんの近くに行く三好なら、説得すれば結城さんの部屋に盗聴器を持ち込めるのではないか。福本はどうだ?

そこまで考えて俺はハッとした。
いや。今は盗聴の機械がないんだった。今仕掛けたって無駄打ちだ。それより・・・、また考えてしまっていた。
俺はかぶりを振って、食堂へ行った。

食堂には甘利と小田切と福本がいた。そこへ実井もやってきた。
「あれ?甘利、田崎は食べないのか?」
俺が言うと、甘利は魚をつつきながら、
「あぁ、あとから来るらしい」
「ふーん」
俺は何ということもなく席に着こうとした。すると、隣にいた実井が腕をひっぱった。
なんだ?と声に出さずに聞くと、実井は俺にだけ聞こえるくらいの小さな声で、
「さっき、三好が田崎の部屋に・・・」
と言った。

なに?三好と田崎が!?なにをしてるんだ!?ナニをしてるのか!?気になる!
確か田崎の部屋の本棚にはまだ盗聴器が生きていた!聞ける!
そこまで考えて俺は突っ伏した。
いや・・・。今は聞けない・・・。

「波多野、なに百面相してるんだ?珍しいな」
甘利がニヤニヤ笑って俺を見た。
貴様に俺の気持ちがわかるものか。
































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