勿論、田崎は三好の誘いが嬉しくなかったわけではない。
十分に気持ちは揺れた。
三好ほどの美貌の青年から、インランになりたいと告白され、どうしていいかと教えを請われる。
愛の伝道師田崎としては、ぜひとも手取り足取り、テクニックを伝授したいところだ。
だが、それはこないだ小田切にやった。
結果的に福本の恐ろしい報復を受けて、田崎は精神的に追い詰められた。
あんな悪夢はもうごめんだ。

田崎はひかれる後ろ髪を断ち切って、三好を突き放した。
「悪いけど、他を当たってくれ・・・」
すると、三好は目に涙をためて、はらはらとそれを溢れさせた。
だが、ここで負けるわけには行かない。
田崎は部屋を出ると、自分の頬を打って、廊下に出た。

しっかりするんだ。
うっかり三好に手を出して、結城さんの怒りを買うことになれば、こないだ以上の報復を受けることは目に見えている。
俺は自分が可愛い、ごめん三好。
田崎はそう呟くと、肩をそびやかして歩き始めた。

夜になると、神永が誘いに来た。
玄関で小田切と波多野も待っていた。
囲まれるようにして、田崎は外へ出る。

<ガス灯>。いつも来るバーだ。カウンターと広い店内。西洋風のこじゃれた店だ。
4人はテーブルに座った。音もなくウイスキーのボトルがテーブルに置かれた。
「コンテストのことだけど」
田崎が切り出した。
「インランコンテスト?」
「三好が最下位っておかしくないか?」
波多野は思案するように目を閉じていたが、
「結城さんの計略だろう」
と言った。
「計略って?」
「わからないのか?コンテストで上位に入れば、皆が関心を持つだろう?結城さんはそれが嫌で、わざと三好を外したんだ」
「なるほど、一理あるな」
頷きながら、田崎はふと思い出した。
田崎、小田切、波多野、実井、甘利、福本、神永、三好。
インランコンテストの順位だ。
今日一緒にいるのは、神永を除いたら、コンテストの上位2名だ。
まさか・・・。それがなにか関係しているのか?

「今夜はとにかく飲もうぜ」
神永が言った。









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