青ざめた顔をして廊下からクロエと哲雄君が飛び込んできた。
「いなくなったって!本当ですか!?」

「落ち着いて、二人とも」
「ですが、ですが、三好さんのことは父も特に気にかけていたんです。三好さんに何かあったら、本当にどう詫びたらいいか・・・!」
「大丈夫、大丈夫ですよ、哲雄君。お茶でも飲んでください」
小田切と福本がいつものように二人を宥めた。

二人がお茶を飲むと神永が三好の部屋に残されていた手紙を差し出した。
それを食い入るように読んで、哲雄は、ひゅっと息を飲んだ。
「これって、これって、つまり」
「ええ。来たんでしょう。あの人からの連絡が」
「つまり、魔王からのお迎えだ」
波多野がにやっと笑う。
それとは反対に、哲雄とクロエはさらに青ざめて狼狽した。
「・・・きっともう、三好は帰ってこないよ。だが、それでいい」
甘利がクロエの髪を撫でて宥めるが、クロエは大きな青い瞳を涙で濡らして嗚咽した。
困ったようにクロエの隣に立つ甘利に代わって、田崎が静かに話しかけた。

「甘利の言うとおり、これで良かったんです。三好はやっと結城さんに会えるんですよ。確かに二人とも私たちに挨拶くらいしてくれていいとは思いますけどね。そうできない理由があるんでしょう。それより、何十年と願い続けてきた三好の想いが今叶っているのでしょうから、祝福してあげませんか」

田崎の静かな声は、優しいようだけれども、死神からの宣告のようでもあり、哲雄もクロエもとても祝福してあげるような気分にはなれず、ただただ、涙を流した。
「理解できないかもしれないけれど・・・」
実井がそっと微笑んだ。

「私たちはみんな、結城さんにだったら殺されても構わないと思うほどに全てを賭けていたんです。皆、三好が羨ましいくらいですよ・・・」


三好は今朝、部屋に手紙を残して消えていた。
もともと何もなかった部屋はすっかり片付いていて、三好の決意をうかがわせた。いつの間に連絡が来たのか、D機関員が7人も揃っていたのに全く気づかなかった。
二人が過ごしていた頃に、二人にしか分からない合図を決めていたのかもしれない。手紙ではそのことには全く触れず、ただ、照れ隠しのように短い言葉が書かれていただけだった。


<世話になったね。最後の任務に行って来るよ。>







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