第二次世界大戦後の混乱期、世界各国に派遣されたD機関員たちは、結城中佐からの連絡を待ってしばらくの間はその国に留まった。
やがて様々な手段で結城中佐からのコンタクトがあり、一人、また一人と任務から解放され、終戦から何年も経って、三好を除く7人はようやく日本へと戻ってきた。

その間、直接結城中佐と話をしたり、姿を見たりしたものはいなかった。だが、受け取った暗号は皆、結城中佐を示すものだった。
7人はそれぞれ会うことを極力避け、日本の状態を確認すると、大部分がまた外国へと戻っていった。
既に生活の基盤がそちらにあったというのもあるが、結城中佐のいない日本にさほど魅力を感じなかったのか。
それほど、D機関で過ごした日々は鮮烈で、その解散を直視できなかったのかもしれない。



それからまた何十年か経って、漸く三好が帰国した。
ある日突然、大東亜文化協会のあった場所に現れたのだ。
時折その場所を訪れていた哲二が慌てて三好を引きとめた。
そして、哲二が唯一連絡先を知っていた福本に知らせた。
それがきっかけでD機関員が日本に再集結することとなったのだ。
三好はその後、また行方をくらませた。

彼がいなくなる前に話していたことから、結城が三好と過ごしていたことがわかった。
しかし、どういうわけだが、結城は三好の前から姿を消した。
三好は結城を探し回っていたのだろう。

彼が皆の元に戻ってきたのは、それから長い年月が経ち、エマがデイサービス施設を立ち上げ、そこに7人が入居をきめたあとだった。
どれだけ、探し続けたのだろう。
結城さん、貴方がいないと三好はこんなにも空っぽなのに、どうして姿を消したのか・・・。


神永は机の上に飾られた写真を見つめた。
そこには、海岸のレストランの前で笑う真島と神永の姿。
ずっと二人で過ごし、最後は看取ることが出来た自分でさえ、空っぽな心を誤魔化したくてわざとらしいほど明るく振舞ってしまうというのに、三好はどんな思いで結城さんを探していたのだろう。


引き出しを開けると、結城中佐から昔受け取ったロビンソン・クルーソーの本を手に取った。

結城中佐の真意は、誰にもわからない・・・。







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