今日は風が冷たい。
テラスの外に出ると、頬を刺すような風が遠くから雪を運んできた。もう、すっかり冬だ。


「三好、テラスは寒いだろう。中でコーヒーでも飲まないか」
「ありがとう、すぐに行きますよ」
「・・・三好」
「なんです?」
「いや、なんでもない。待っているよ」


小田切はテラスの扉を閉めると、まだ遠くを見つめる三好から、そっと離れた。
ここへ来てからも、三好はよくひとりになって遠くを見つめては何かを思い出している。
それが何なのかを、D機関員の誰もが知っていたが、誰も何も言わなかった。というより、いえなかった。


誰しもが望んでいて、到底叶うことのない願い。
結城中佐が、生きて、ここに、三好の眼前に、現れてくれたならば・・・。
小田切は頭を振ると、コーヒーを用意してもらったテーブルへついた。
隣には福本がいて、砂糖の瓶を差し出してくれた。
こんな風に、三好も結城さんと何気ない日々を過ごせたなら・・・。
風が運ぶ雪は、テラスの木に触れるとたちまち、何もなかったかのように溶けた。


全てが隠された存在だったD機関。

こうして集まっていなければ、夢だったのかと思うほどの完全な暗闇の中の存在。
結城中佐も、三好がその思い出を繰り返し繰り返し呼び起こさなければ、なかったことになってしまいそうで、誰もが、怖かった・・・。

















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