外からざわざわと話し声が聞こえてきた。
バタンと車のドアの開閉する音も響く。
「あぁ、来たようだね」
「じゃ、ゲームはここまでにしておきましょうか」
「もう少しで全額取り戻せるはずだったのになぁ」
「まぁ、また明日付き合いますよ」
テーブルの下ですっと数万円を受け渡し、慣れた手つきで内ポケットにしまうとカードを片付ける。


廊下をパタパタとスリッパで歩く音が近づいてきた。
ひとつは小走りに、もうひとつは転びそうになりながら走る小さな足音。
甘利はカードをテーブルに置くと、ドアに向かって座りなおした。
「おじいさま!」
「おじーちゃーん!」
「やぁ、来たね」

手を広げる甘利の膝元に小さな男の子が飛びつくようにしがみついた。日本語は堪能だが、金髪碧眼の少年は、年のころは7か8か。
大きな瞳をキラキラさせて甘利の顔を覗き込んだ。
「ははは、また大きくなったね、ジョシュア」
「おじーちゃん、イルカのお話して!?」
「よしよし、少し待っておいで」
甘利がジョシュアの頭を優しく撫ぜると、つまらなそうにしながらも素直に頷いた。
そんな様子を見て、田崎が横から声をかけた。
「ジョシュア、おいで、マジックを教えてあげよう」
「ほんと!?」
田崎が男の子を連れて行くのを見てから、甘利はクロエに話しかけた。
「エマは、どうしている?」


「おじいさま、お母様は元気よ。でも、頑張りすぎてしまうから今日は休むように言ったの。おじいさまに会いに行くってきかなかったのだけど、このところずっと休みもとらずに仕事をしていたから心配で。後で電話でいいからお母様に一言言ってくださいな?お母様、おじいさまの言うことしか聞いてくれないんだもの」
「それはいけないね。後で説教しておくよ」
ありがとう、おじいさま」

クロエは嬉しそうに笑うと、甘利の手をとって隣に座った。
「おじいさまも、お体を大事になさってね」

クロエは、母親のエマに似て、とても優しくて芯が強くて賢い女性だ。イギリスに一旦戻って結婚してクロエを産んだエマは、甘利とことあるごとに連絡をとっていて、とうとう日本に移住し、このデイサービス施設のオーナーとなった。
今も、新しい施設を立ち上げようと東奔西走しているのだが、娘からすれば、早く引退して欲しいところだろう。
いくら元気とはいえ、そろそろ自分だけの幸せのために時間を使って欲しい、家族ならそう願うものだ。

だが、エマのような過酷な幼少期を過ごしたものは、幸せというだけでは不安になるのも無理はない。
幸せを自ら引き寄せる努力を続けなくてはいけない、そんな思いに囚われてしまうのは仕方のないことなのだ。
























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