ここは、関東にあるケアハウス・・・。
海が望める立地、美しい自然に囲まれた中で老後を豊かに過ごす為、医療、娯楽施設の整ったこの高級ケアハウスへ、現役を退き金銭的に余裕のある老人が、全国から集まってくる。
トレーニング施設、ビリヤードやカラオケの出来る遊戯室、図書室、カジノまでがあるこの施設は、外資系のケアハウスで、まとまった金が払える人ならぜひとも入居したい人気の施設なのだ・・・。

その名は・・・Dサービス ドルフィンクラブ・・・。
(この物語はフィクションです。実在の人物、団体などとは一切関係ありません。)



「なに?全てを賭ける気か!?」
「負ける気がしないからな・・・」
「言うじゃないか・・・。それなら後でカードで勝負しようじゃないか。それまで元手を残しておけ」
「いいだろう・・・。カードで勝負なんて、無謀だな」

車椅子に乗りながらも器用にコインを移動させる老人は、隣に座っているもうひとりの老人と楽しそうに話をしている。椅子に座る老人は、日本人とは思えない上背があり、片手はテーブルに載せて頬杖をついている。その彼が覗き込んでいる車椅子の老人もやはり背が高く、洗練された印象を受ける。
二人とも、現役時代には、仕事で欧米へわたっていたらしく、着物よりはタキシードが似合いそうな風貌だ。

「なんでもいいので、はやくしてくださいよ」
柔らかな物言いで二人のやりとりを制したのは、テーブルの反対側に座る老人だ。口調は柔らかいが、他の反論は受け付けないような雰囲気を纏っていて、その場の空気が一瞬固まる。テーブルを見つめながら煙草に火をつけたその老人がちらっと上目遣いで二人を見る。老いていてもその眼光は鷹の様に鋭い。

「次のディーラーは誰がやりますか?」
「じゃあ、私が・・・」
「貴様がディーラーじゃ、誰も儲けられないじゃないか」
「失礼な・・・。まるでいかさましているような言い方は止めて頂きたい」
「貴様こそ、まるで清廉潔白のような言い方はやめるべきだぞ」
隣のテーブルの老人たちも冗談を言い合っている。
穏やかなのに、含みを持たせるような言い方をして、互いをけん制しあう数人の老人たち。
他の入居者もそれなりに品格があるのだが、このグループは他とはどこか違うのだ。

すべてを欺き、生き残れ・・・。
遙か昔、そう叩き込んだ人は今、どこで眠るのだろう・・・。
あの人のことだから、この平成の世を、今もどこかで悠然と見つめているのかもしれない・・・。










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