『・・・やめろっ・・・!』
スピーカーから聞こえて来るのは苦しげな田崎の声。

雑音に混じって、衣擦れの音が激しくなる。
『やめろぉ・・・』
涙声になっていくのを聞いて、瀬尾がたまらず声を出した。
「どうも、気の毒ですね〜」
「ふん、仕方あるまい。実験台を探していたこのタイミングで、福本の怒りを買った田崎のミスだ」
結城中佐はそういうと録音機の隣に陣取る大きな箱に手を置いた。


「だが、実験は一先ず成功した。田崎の功績だな」

結城中佐の目の前にあるのは、夢を操る機械だ。
米軍では以前から研究が進められていた。遠隔から電磁波を送り、脳波に作用させることで、夢を見せたり、反対に夢を読み取ったりすることが可能なのだという。
その研究がどの程度まで進んでいるのか、実用化の目処がついているのか、実験はどこで行われているのか、ほとんどが分かっていない。
しかし、各国のスパイとおぼしき人間が、突然自殺をしたり、意味不明な言葉を発する狂人となったりするのは、何か意図的なものを感じた。

「米軍のものは脳波を操るそうだが、この機械はしょせんサブリミナル効果を応用したに過ぎん。田崎に夢を見させられたが、五日間実験をして漸くだ。その間、田崎の思考を誘導するように福本たちに接触させなかったら、もう少し時間がかかっただろうな」
「この程度では使い物になりませんか〜」
「いや、米軍の上を行くものはできないとしても、夢を見させられようとしているものをガードするくらいはできるだろう・・・。その観点からもう少し研究してみろ」
情報が本物か偽物か分からない以上、対抗措置を模索する必要があるのだ。


その頃、甘利の部屋では田崎が甘利に無言でしがみついていた。
「田崎、俺もまだ一応怒ってるんだがな・・・」
「ごめん、甘利・・・。でも、このままいさせて」
「なぁ、なんで小田切と・・・?」
「ん・・・あぁ・・・。最初は、ほんとに悩んでるのを助けてあげたかっただけなんだ。でも、小田切があんまり可愛くて・・・」
「おぃ、可愛いと寝るのかよ」
「ごめん、でも、最後まではしてないし」
「え?してないのか???」
「?あぁ、してないよ?」
「え、ほんとに!?」
「うん・・・」
「おまっ、それ、早く言えよ!福本も誤解してるぞ!」
「ええ!?じゃあ、小田切から聞いたわけじゃないのか!?福本の推測で俺はあんな酷い実験台になったわけ!?」

福本を絶対に怒らせてはならない。
身に染みて感じた田崎は、甘えるようにまた抱きついた。
甘利はその頭を撫ぜながら、
「それでももうしないでくれよ」
と呟いた。

俺だって、お前が奪われる悪夢には飽き飽きしてるんだーーー。













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