「甘利!」
ドアを開けて甘利を呼ぶ。

薄暗い執務室の中には、俺に背を向けて立つ数人の男。
そのせいで中が見渡せない。
「甘利!いるんだろ!?」
いつも使わないような言葉で苛立ちをぶちまけた。

すると、隙間から結城中佐が見えた・・・。
デスクに両肘をついて手を組んでいる。
目が合った俺を嘲るようにニヤリと笑うと、片手を挙げた。
すると、一人が前に進み出ておいてあった機械を止めた。

ピタッと先ほどまでの気の狂いそうな声が止んで、静寂が訪れる。

俺は、なにがなんだかわからなかった。
わからないながらも、失態を犯したことには気づいて、思わず舌打ちをした。

「ふっ・・・。舌打ちか・・・」
目の前にいた男が振り向いた。
「福本・・・!」
ゆっくりと周りを見渡す。そのほかには、波多野、実井、神永、それから・・・甘利。
「甘利・・・、どういうことだ」
「田崎、聞きたいのはこっちのほうだ」
「え・・・」
「わかってるんだろ?俺が聞きたいこと」
「小田切・・・の、ことか?」
甘利は腕を組んだまま、憮然とした顔で頷いた。


「貴様が節操なしにいろいろなところに手を出すからな。少しは、手を出される側の気持ちにもさせてやろうという優しさだ」
福本が淡々と告げる。その落ち着いた声はかえって恐怖だ。

「貴様を教育する為だと言ったら、皆、喜んで協力してくれた。いい仲間を持ったな」
「はは・・・、そのようだね・・・」
皮肉な言葉に笑って返したけれど、俺の声は滑稽なくらい掠れていた。
視界の端で、甘利が困ったように笑った。

福本の策略に見事にはまった俺は、その時心底安堵して、恥ずかしいとか情けないとか悔しいだとかではなく、ただただ「あぁ、甘利が、奪われなくて良かった・・・」と思うばかりだった。






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