真っ暗な部屋の中に卑猥な音と、耳を塞ぎたくなるような喘ぎ声が響き渡る。

それがどこから聞こえてくるのか、分からなくて辺りに目を凝らすと、裸にされて椅子に縛り付けられた甘利の姿が浮かび上がった。
甘利!

叫ぼうとしたが声が出なかった。身体も金縛りにあったみたいに動かない。
甘利の後ろには結城中佐がいて、甘利を縛る縄をギリギリと引き締めるたびに甘利が低い声で唸る。
かと思えば、福本が甘利の前に立ち塞がり、その身体をいたぶるように触り、そのたびに今度は甘い声で喘いだ。
やめろ!甘利に触るな!

しかし、その声は空気を震わせることなく、甘利の吐き出す苦しげで妖しげな声だけが耳に届いて、耐え切れず目を閉じた。
やがて声が止んだ。それに気づいて目を開けると、波多野が甘利にキスをしていた。
波多野からしている筈なのに、受け入れて波多野を責めるように舌を絡めているのが、離れている筈なのにハッキリと眼前に見える。

やだ、甘利・・・。やめて、俺以外の奴に触らせないで、触らないで・・・。

気づくと甘利は縄を解かれていて、周りには、神永や三好や実井や小田切までいて、順繰りに抱きつき抱かれていく。

やめろっ、やめろやめろやめろやめろっ!
「甘利!やめろ!!!」

身体中汗だくで目を覚ました。
自分の部屋の自分のベッド。周りには、誰もいない。
暗闇の中、田崎は両手で顔を覆った。
なんて悪夢だ!
耳にはまだあの声が聞こえてくる。
俺としたことが、夢に見るほど惑わされるなんて・・・。
こんなんことで幻聴とか、スパイ失格だな・・・。
そこまで考えて、田崎は顔をあげた。
幻聴?
いや、何か聴こえる。
心臓が跳ねた。

喉の渇きを感じながら、廊下を進む。
聴こえる。夢と同じだ。
執務室からひそかに聴こえる苦しげな喘ぎ声。
止めなきゃ、嫌だ、甘利・・・!

田崎はふらつく脚でようやく執務室の前へたどり着くと、震える手でドアを開けたーーー。




























inserted by FC2 system