翌日、講習が終わり甘利を捕まえようと席を立とうとすると、
「甘利、それから福本、ついてこい」
と結城中佐が甘利を連れて行ってしまった。
何の用だろうかと見つめる俺を、去り際に福本が一瞥していった。
・・・福本?何を考えている?

「波多野、今日、一緒に街に行こう」
実井が波多野を誘っている。
「ん?あぁ」
すんなり了承して、波多野と実井は講義室を後にした。
俺も、慌てて結城中佐の後を追う。
中佐は執務室の中に入るところだった。
そのあとを甘利が続き、福本が甘利の腰に手を回して入室すると、パタンと扉が閉まった。
なんだ?今の。
入室する直前の福本の笑みが、昨夜の笑みと重なった。
俺はその場を離れがたくて、扉の横で中の様子を窺う。
何かが起きている、それが分からなくて、気分が悪い。
聞き耳を立てても、何も聞こえず、諦めて漸く執務室を後にした。


談話室に行くと神永がいた。
「神永・・・。結城さんは何で甘利と福本を呼んだんだろう?」
何気なく聞くと、神永は煙草をふかしていた手をテーブルに載せて少し考え込んだ。
「前も呼ばれてたぞ、その二人」
「え?いつ?」
「ん〜月曜日だな。呼ばれたっていうより、福本が甘利を連れて結城さんのところに行った感じだな」
「任務じゃないってこと?」
「・・・どうだろうな。福本の考えていることは、よくわからないから・・・」


ぞっとした。甘利が危険に晒されているのではないか、そんな嫌な予感がして執務室へ戻る。
ノックをして入ると結城中佐がこちらに向かってニヤリと笑った。
「何だ」
「甘利がこちらに来ていたと思いましたが・・・」
「もう用は済んだ」
「何の用だったんでしょうか」
「貴様に教える必要はない」
奥歯を噛み締めた。分かっていて聞いた筈だが、その返答にイライラした。
「失礼しました」
平静を装ってそういうと、執務室から出た。
用が済んだのなら、今は福本といる筈だ。
しかし、福本の部屋も、食堂も、何処を探してもふたりは見当たらなかった。


夜、食事の前に漸く甘利を捕まえた。
「甘利・・・!食事の後、話があるんだけど」
「田崎、すまないが先約があるんだ」
「先約?」
「波多野が教えて欲しいことがあるらしくてね」
「じゃあ、俺も一緒に行くよ」
「え・・・、う〜ん」
「どうして悩むんだ?」
「波多野に聞いてみないと・・・」
「そんな、聞かなきゃいけないようなことなのか?」
思わず甘利の腕を掴んで引っ張った。
すると甘利の右手首に赤い痣が見えた。
「・・・なに・・・これ?」
そう聞くと、甘利が慌てたように手を振り払った。
「なんでもない、訓練でついた痕だ」
「最近、そんな訓練なかっただろ。甘利、俺に何を隠してるの?」
「隠してなんか、田崎、これは結城さんが次の任務に必要な技術を指導してくれたときのだよ。任務のことは詳しく話せないんだ、わかってくれ・・・」
「そんなことを言ったって・・・」
すると後ろから神永の陽気な声が邪魔をした。
「甘利!丁度良かった!こないだ話していた店、紹介してくれよ!今日なら空いてるから、夕飯食いに行こう!」

そうして、二人はあっという間に俺の前からいなくなってしまった。


結局その夜、甘利は帰ってこなかった。
波多野といい、福本といい、神永といい、結城中佐といい・・・
俺は周りにいる全ての人間が、俺から甘利を奪うように思えて、柄にもなく苛立ちを隠せなかった。





























































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