その日、夕食が終わった波多野が、真っ先に席を立って食堂から出ようとしたところを、隣に座っていた実井が慌てたように声をかけた。

「波多野!何処へ行くの?」
「あ?あぁ、いや、別に・・・部屋に戻るだけだ」
「・・・そう?」
「何か用か?」
「いや、なんでもないけど・・・」
実井がそう返事をすると、波多野は不思議そうな顔をしながら食堂から出て行った。
「実井、どうかした?」
一部始終を見ていた俺が声をかけると、
「田崎・・・、うん、ちょっとね」
と実井は困ったように言って、俺を談話室に誘った。


「それで?」
実井に続きを促すと、実井は談話室の肘掛け椅子にドサッと腰を下ろして、少し苛立ちながら言った。
「最近波多野が変なんだ。すぐに部屋にこもるし、何をしているか聞いても教えないし」
「そんなの、ここじゃ普通じゃないか?」
「それだけならね。でも、甘利には話せるみたいなんだ」
「甘利に?」
なんでここで、甘利がでてくるんだ?
「さっきも、甘利は食堂にいなかったよね。最近、いないこと、多いと思わない?」
そう言われてみればこのところ甘利が忙しそうにしている。
結城さんから新たな任務を指示されたのかと思っていたが。
「任務じゃないのか?」
「任務ねぇ・・・」
「・・・何か気になることがあるの?」
「それが・・・」


俺は廊下を早足で歩き、甘利の部屋に向かった。
実井の懸念が当たっていれば、波多野と甘利が隠れて二人で部屋にいるかもしれないからだ。
実井は、先日談話室で二人が話しこんでいるのを目撃していた。
いつになく親密に。
その日から、波多野の様子がおかしいらしい。

それが先週の日曜日のこと。もう一週間になる。
甘利の部屋のドアをノックする。
返事がなかなかなくて、イライラした。
もう一度ノックするが、返事はない。
ノブを回してみたが、開かなかった。
出かけているのか?
試しに、波多野の部屋へ向かった。
しかし、部屋に戻っている筈の波多野も返事がなくて、ノックする音だけが廊下に響いた。

まさか・・・あまり考えたくはないけれど、二人でこっそり出かけているなんてこと・・・。いや、だからといって、何があるわけでもないだろうけど・・・。
ーーーいや、果たして本当にそうなのか?
























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