ゼミ終わりの学食のカフェで、実井に会った。
実井は、
「甘利さん。いつもラブホっていうのはどうかと思いますよ」
とのたまった。
俺は驚いて、
「つけてたのか!?」
「人聞きの悪い。たまたま見かけるんですよ」
と実井はこたえて、はにかんだように笑い、
「あれじゃ、田崎さんが可哀相ですよ」
と言った。


「どうしたの?いきなりこんないいホテルに連れて来て・・・」
田崎は不審そうな顔をした。
街の景色が見下ろせる高層ホテルの一室。
窓の外は、宝石箱をひっくり返したような東京の夜景だ。
「別になんでもない・・・たまには、いいだろ?」
「落ち着かないよ。却って。俺たちみたいな学生には不相応な気がして」
「気に入らないのか?」
俺は幾分がっかりして聞き返した。
老舗旅館の次男坊の田崎とは違って、俺は普通のサラリーマンの息子で、日夜居酒屋でバイトしている貧乏学生だ。
だが、実井に言われたことが心に刺さった。
俺は田崎を大切に思っているし、大切にしたい。
そう思っていることを、伝えたかった。
「変だよ、甘利。無理したりして。・・・もしかして」
田崎の顔が曇った。
「もしかして、なんだよ」
「浮気でもしたの?」
なんでそうなるんだ。
「馬鹿言うなよ」
「最近あんまり会えなかったし、変だとは思ってたんだ」
田崎は意外なことを言い始めた。
「最近忙しかったのは、もうひとりのバイトの奴が風邪で休んで、バイトを入れてたからだ。浮気とか、そんなんじゃない」
「本当に?」
田崎の切れ長の眼が鋭く光った。
「俺、本当は見たんだ。学食のカフェで、君が実井と何か話しているところ。凄く、親しそうに笑ってた」
俺が実井と浮気?そんな馬鹿な。
だが、田崎は疑いの眼差しのまま、小さく吐息した。
「白状しろよ」




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