あれからしばらく、神永の訪れはなかった。
こっちから会いに行きたいのはやまやまだが、あそこはそういうことのできる学校じゃないし、ジゴロのセオリーとしても、怒っている相手に会いに行く、というのはいかにもまずい。
数日を、じりじりとしながら過ごした。

カウンターで灰皿を拭いていると、扉の鈴が鳴った。
顔を出したのは、三好だ。

「あんたか・・・」
「がっかりした?残念でした」
舌を出して、三好は席に着く。
「なんにする?」
「安酒」
「安い酒しかねーよ」
言いながら、ジンを注ぎ、三好の前に置いた。

「忙しいのか?その・・・」
「神永?さっきまで一緒だった」
「なに?」
心がざわつく。
「真島さんの店に行くっていったら、俺はいい、喧嘩してるんだって」

「・・・喧嘩なんかしていない。一方的に腹を立てているんだ」
「神永が?珍しいな。あんまり怒ったりする奴じゃないんだけど」
三好がグラスを仰いだ。
「原因はなに?」
「それは・・・」
俺は口を濁した。
原因も何も、俺にもさっぱりだ。

「神永はどこへいったんだ?」
「さあ?近くで飲んでるんじゃないかな、ひとりで」
興味なさそうに、三好は言ったが、ひとりで飲んでいる神永を想像すると、俺は面白くなかった。
誰かが声をかけるかもしれないし、声をかけようと、狙っているかもしれないのに。
「剣呑な顔だな、真島さん」
からかうように、三好が言った。
「神永が浮気するかもって、想像したんだろ?」

そのとき、扉が開いて、誰かが顔を出した。
「神永」
立っていたのは、神永だった。息を切らし、睨みつけるように俺たちを見ていた。






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