「さっきのは、なんだ。田崎」
甘利が低い声で言った。
「さっきのって?」
「神永の肩を抱いたりして・・・」
「別に、ちょっと面白くなかっただけ」
「面白くないって?」
「神永が、あの男と付き合ってるなんて、面白くないんだよ」
甘利は、へえ?と呟いた。
「なんでお前が気にするんだ?」
「甘利だって気に入らないだろう?あんなジゴロ崩れの・・・どこがいいんだ」

「お前・・・それは嫉妬だぞ」
甘利が指摘すると、田崎は皮肉に口元を歪めて、
「わかってる」
と言った。
「わかってる・・・ね」
甘利は言い、黒ビールを飲んだ。

田崎たちは、バーをはしごして、3件目の店にいた。だいぶ酔いも回っている。
3件目の店は、<麦酒水族館>という名前だ。店の周りを巨大な水槽が囲っている。中には南国の派手やかな魚が、群れてこれ見よがしに泳いでいた。

「神永を置いてきて好かったのかよ?」
と波多野が言った。
「本当鈍いですね、波多野くん。まあ、それがいいところでもあるけど」
と実井。
「なんか用事があるらしかった」
と小田切。
「用事か、あるかもな」
と福本。
「あの足じゃ、足手まといですよ」
と三好。
「同情しないところが、君らしいよ」
と田崎。

「同情だなんて・・・単なる自分のミスでしょ?怪我するなんて、D機関員としてはあるまじき失態だ」
と三好。
「厳しいねぇ・・・神永には。佐久間の時は、あんなに」
言いかけた田崎の口を、甘利が手で押さえた。

「そのへんにしとけ。・・・結構飲んだな、田崎。悪い口だ」
「ぷはっ・・・離せよ・・・俺は酔ってない・・・っ・・・」
「三好、朝まで付き合えなくて悪いな、俺は田崎を連れて帰るわ」
「勝手に・・・!」
ふりほどこうとした腕を押さえつけ、甘利は田崎を連れて店を出た。

「あいつら・・・最近喧嘩ばかりだな」
と福本が呟いた。





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