神永の退院の日。

俺はバーの開店準備をしていた。
ワイングラスやボトルを磨きたて、ビールを冷蔵庫にしまう。
料理の下準備をして、それも冷蔵庫にしまった。

扉が開いた。
神永、と思いきや、またもや三好だ。
「こんばんは。約束どおり客を連れてきましたよ」
三好の後からはぞろぞろと、見たような顔が入ってきた。あそこの生徒たちだ。
甘利、田崎、波多野、実井、小田切、福本・・・そして、最後に神永が、松葉杖をつきながら入ってきた。

「真島さんじゃん。ジゴロは廃業したのか」
甘利が言った。
「まぁね・・・女には逃げられてね」
「またまた。昔より男前になった感じだぜ?髭なんか生やして」
甘利がからかう。
「甘利、失礼だよ」
やんわりと嗜めたのが田崎だ。
田崎・・・こいつが神永をふった男か。
どこかつかみどころのない雰囲気の、謎めいた男だ。
まあ、謎めいているのは全員、似たような雰囲気だが・・・。
「神永、こっちに座れば?」
田崎が言った。神永が松葉杖をつきながら、田崎の横に座る。

こうして勢ぞろいしてみると、どうやってこんなにイケメンばかりを集めたのか、その秘訣を聞きたくなってくる。背は足りないのも2名ばかりいるが、あとはそれなりに背も高く、整った顔立ちを見れば、迫力さえある。
「ま、神永の快気祝いだ。乾杯といこう」
小田切が言った。
「とりあえずビールにしますか」
と三好。俺はグラスを配った。互いにビールを注ぎ、グラスを持つ。
「乾杯!」

「しかし、塀から堕ちて足を折るなんて、貴様も修行が足りないな」
と波多野。
「仕方ないだろう。塀が意外と高かったんだから」
と神永が反論する。
「打ち所が悪ければ死んでいるところだ。まあ、無事でよかった」
と田崎。
「見舞いにも来ないでよく言うよ」
と神永が言うと、田崎は神永の肩に手を回して、
「行きたかったが、忙しくてね」
といった。
「真島さん、さきいかはないの」
と三好。俺は黙ってさきいかをだした。
田崎はまだ肩に手を回したままだ。見せ付けているのか・・・。
俺は煙草を銜えて、火をつけた。

本当ははやく神永とふたりきりになりたかったが、仕事は仕事でせねばならない。
俺は無言で水割りをつくったり、料理をだしたり、灰皿を片付けたりした。
神永はちょっと気の毒そうな顔をしていたが、なにもいわなかった。










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