「頭の中があんたで一杯になって・・・ぐちゃぐちゃになるのが」

神永の告白を、呆然として聞いていた。
ひからびそうになっていた心に、清涼な水を注がれたような感じがした。
俺はカウンター越しに、神永の頭を触った。
柔らかくて茶色の髪の毛は、ライトを浴びてキラキラと光っていた。

「それで、逃げ出したのか」
神永の、そんな幼さが、俺には愛しい。
自分の気持ちに戸惑い、振り回されている。
そんな時期が、俺にも確かにあった。
それはだいぶ遠い昔だったが・・・。

神永は顔を伏せたまま、じっとしている。
「そんなにも俺のことを想ってくれてたんだな・・・」
「ちがっ」
神永がはっとして顔を上げた。その機会を逃さなかった。
俺は腰をかがめて、カウンター越しにキスをした。
もう逃がさない。
片手で神永の頭を支え、激しいキスを繰り返した。
わずかに抵抗したが、やがて応えるようにキスを返してきた。


「やれやれ。この店は貸切か?」
いつの間に入ってきたのか、音はしなかった。
帽子を被ったままの田崎と、甘利だ。

「悪いな。貸切だ」
俺がそう答えると、帽子を軽く持ち上げて、
「そうか。なら、別の店に行くまでだ」
皮肉に笑うと、連れ立って出て行った。

「鍵をかけておくんだったな」
俺が言うと、
「ここじゃ、背中が痛い」
と神永が言った。

「泊まっていけよ」
俺は囁いた。神永の頬が、赤く染まるのが美しいと思った。



inserted by FC2 system