「愛を試したくなるのは、貴様が未熟な証拠だ」

結城さんに言われた言葉が胸に刺さった。
大人ぶっていても、俺は、未熟だ。
愛は試してはならない、と、聖書にもあったっけ。
でも、俺は、甘利を試さずにはいられない・・・。
愛なんて、脆く、壊れやすいものなはずなのに。


部屋に戻ると、誰もいなかった。
いつもなら、甘利が勝手に入り込んで、ベッドでくつろいでいる時間だ。
俺はため息をついて、ベッドに寝転んだ。

ドアがノックされた。
「田崎」
神永だ。甘利を期待した俺は内心がっかりしたが、顔には出さなかった。
「結城さん、なんだって?怒られたか?」
「壊れた備品の分は貴様が払えと言われた」
「えっ・・・まじか?俺も払うよ」
「いいんだ。元はといえば俺のせいなんだし。結城さんにも全部話した」
「え・・・まじか・・・」
神永は絶句している。さすがにばつが悪いのだろう。

「それに、ここだけの話だが、シンガポールに行くことになった。5日後だ」

「・・・貴様がか」

「顔、腫れてるな」
神永の顔は、甘利に殴られた痕がくっきりと、青痣になっていた。
「男ぶりがあがったろ?いいんだ・・・殴られてすっきりした」
そういって笑う、神永は、やっぱり本来イイヤツなんだろう。
「それより、シンガポールか。遠いな」
任務の期間は、未定だ。
数ヶ月かもしれないし、1年、いや、もっと何年にもわたるかもしれない。

「そうでもないさ。眼と鼻の先だ」
「俺と離れられて、嬉しいんだろ?」
「それは・・・そうかもな」
「あ、傷ついた。・・・この正直者」
おどけて、それから真顔で、
「・・・俺じゃ、駄目か?」
念を押すように尋ねた。

「甘利を、愛してるんだ」
意外なくらいにすっきりとした自分の声。

甘利と別れたくない。
それだけは、わかっていた。







inserted by FC2 system