「どうしたんだよ」
甘利は言った。
「子供に馬鹿な質問をして、そっちこそ、どういうつもりなんだよ」
食堂には誰もいない。
つい、声が大きくなる。
「子供って・・・じゃあ、なんで哲二君とふたりきりでいたんだ」
「え?」
「やけに愉しそうだった」
「手品を見せてたんだよ、ほら」
服の中から鳩を出し、甘利に見せる。
「手品を見せて気を惹こうとしていたのか」
「・・・・・・」
くだらなくて答える気にもならない。
「あの年頃は危険なんだ。お前にその気がなくても、むこうは・・・」
「まだ子供だよ」
「お前は子供ズキだからな」
「それはそうだけど、そんなことに嫉妬するなんて、どうかしてる」
本当に、どうかしている。
「どうかしてる?・・・ああ、そうかもな」
声が暗い。
「俺が、何も知らないとでも思っているのか・・・?」
「・・・なんのことだ・・・」
俺の声も低くなる。
「こないだ、俺がいなかった日、お前、神永と一緒だったんだってな」
衝撃を顔に出さない為に、俺は目を伏せた。
「図星かよ・・・二人は朝帰りだったって、波多野が言ってた」
「甘利」
「畜生!」
甘利は突然俺の襟首を掴み、俺は思わず鳩を手放した。
鳩は室内をばたばたと飛び回る。
「お前、俺に神永を殺させる気か?それで、俺と別れたいのかよ!?」
甘利の顔は苦痛に歪んでいた。
「飲んでただけだ」
俺は言った。
「なにもないよ」
「嘘をつけ」
甘利は俺を締め上げた。
俺のつま先は、軽く宙に浮かび上がった。
「やめろ!甘利!」
神永の声がした。俺と甘利の間に割って入った。
「かみなが・・・」
次の瞬間、甘利は強烈な右ストレートを放った。
神永は、反対側のテーブルまで吹っ飛ばされた。
激しい音とともに、テーブルはつぶれ、神永は床に転がった。
「・・・利かねぇよ・・・こんな程度じゃ・・・」
神永は、口元を拭い、ゆらりと立ち上がった。
「田崎は、俺が貰う」