俺は、早速寮の裏庭に行って、風呂の薪割りをしていた哲二を捕まえて、手品を披露した。
「この帽子を持ってみて」
俺が囁くと、哲二は帽子に手を触れた。
「何も入ってないだろう?」
「はい」
俺は帽子を取り戻すと、中から白い鳩を取り出してみせた。
「わあ・・・」
哲二は驚いた様子で、猫のように眼を見開いた・・・。

「・・・・・・」
「どうかしたんですか?」
哲二に言われて、俺は我に帰った。
「いや・・・君があんまり・・・三好とそっくりな顔をするから、少し驚いた」
「え?三好さんですか」
哲二は怪訝そうな顔をする。
似ているといわれてもぴんとこないらしい。

「いや、多分気のせいだろう」
そう誤魔化して、俺は鳩を再び帽子に戻し、消して見せた。
本当は見えないように服の下に隠したのだが、今度も哲二はやはり目を見開いて、驚いている。
所詮、まだ子供なのだ。
それにしても・・・俺には、哲二を採用した結城さんの気持ちがわかってしまった。
可愛い顔をした子供だとは思っていたが、三好に似ているとは気づかなかった。
血縁でもあるのか、と疑いたくなるくらいだ。


「田崎。何をしているんだ」
突然、声がした。
「甘利・・・帰ってたのか」
「今戻ったんだ」
「おかえり。随分早かったんだね」
「嫌味か?昨日はいなかったからな」
甘利は、俺と哲二に接点があるのが不思議に思ったのだろう。
哲二に軽口を叩いた。

「よお、哲二君。俺のいない間に、田崎は浮気をしなかったか?」
冗談めいて言っているが、眼は真剣だ。
「よせよ、甘利。もう行こう」
哲二が何か答える前に、甘利を引きずって、俺は庭を出た。

振り返ると、哲二は、戸惑った顔のまま、立ち尽くしていた。




inserted by FC2 system