翌日。

鳩小屋にいってみると、三好と結城さんがいた。
新しい藁を入れて、鳩を戻すところだ。

鳩を戻すのは、片手では難しい。
だが、結城さんが触れると、鳩は自発的に小屋に戻り始めた。
鳥は、暗示にかかりやすい。

暗示・・・。
神永に暗示をかけて、あの夜の記憶を奪うことができるなら、そうしたかった。
だが、それは危険な行為だ。余計な記憶も消えるかもしれない。

「田崎。遅いよ」
三好が、鳩を手にしたまま振り向いた。
「ああ。鳩は苦手だったんじゃないのか」
「そうでもない。よく見れば可愛い気もする」
鳩は三好の手を逃れ、俺の肩に停まった。
「・・・・・・」
三好が恨めしそうに俺を見ている。
「・・・勝手に懐くのは仕方ないだろう?」
「不公平だ。戻って来い」

鳩は動かない。首をくるくると回して、羽根をつくろいはじめた。
「ダメだな。結城さんのようなわけにはいかないや」
三好は諦めるように言って、大げさに手を広げて吐息した。

「三好」
結城さんが振り向いた。
三好は俺に停まった一羽を残して、扉を閉めた。

「おい、これはどーするんだ」
「貴様が世話をしろ。マジックに使うんだろ?」
三好が皮肉を言う。
「まあ、使ってもいいけど」
俺は鳩を撫でて、昨日の哲二のことを思い出した。
そうだ、マジックでも見せてやろう。
あんなところを見せて、嫌な思いをさせたからな。
「本当に使うのか?皮肉の通じない奴だな」
三好が、その猫のような眼を見張って、俺を見つめた。
そんなふうにされると、ちょっと吸い込まれそうだ。

「三好」
結城さんが呼んだ。
三好は振り返って、そのまま結城さんの後を追いかけた。
独占欲?まさかね。
俺は肩をすくめて、小さく笑った。







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