「僕、ほんとに何も見てません」
少し怯えた、大きな眼が、俺を見上げた。
「薪を持ってきただけだよ。ほら」
俺は哲二君が落としていった薪を集めたものを渡した。
「あ・・・すいません」
哲二君は俯き、そのままじっと地面を見ていた。
「何も見ていないなら、特に注意することはないけど」
俺はさりげなく聞こえるように、言った。
「何か見ちゃったなら、誰にも言わないでくれると、助かる」
「言いません、誰にも」
哲二君は、きっと眦をつりあげ、俺を見た。
意外と気が強い。そして、その表情は、誰かに似ている・・・。
「そお?じゃあ、これ」
俺は賄賂として、小銭を渡した。
「いりません、こんな・・・」
「とっときな。小さな妹がいるんだろ」
たいした額ではないが、ないよりましだろう。
俺は小銭を手に握らせると、にこっと笑って、
「都合の悪いことは早く忘れるんだよ。いいね」
そう念を押した。
さすがに寮で田崎に迫るのはまずいか。
俺は少し反省したが、後悔はなかった。
俺との一夜をなかったことにしようとしてる田崎に、思い出させること。
その目的は果たせたからだ。
田崎。
あの夜から俺は、お前のことばかり考えている。
お前の、均整の取れた美しい身体を、もう一度組み敷きたいんだ。
魂までくれとはいわない。身体だけでいいから。
俺のことは嫌ってくれて構わない・・・。
もう一度チャンスをくれたら必ず、今度はお前から「抱いてくれ」と懇願させてみせる・・・。