「声を立てるなよ」
神永が囁いた。
「人に見られたらまずいだろ?」

「見られたら困るのはお互いさまじゃないのか・・・」
俺は神永が本気でないことを願う。
だが、神永の手はがっちりと俺の手首を拘束している。

「いい子だ」
神永は片手で俺の腰を支えて、いきなり唇を奪った。
「・・・!」
長く、攻撃的な舌が、口の中を蹂躙してくる。

そのとき、ばらばらっと、何かが落ちる音がした。
はっとして、見ると、浴室の出口の扉が開いていて、哲二の姿があった。
「・・・ごめ・・・」
哲二は俺たちの姿にショックを受けたのか、薪を取り落としたまま、固まっている。
まだ昼間だが、風呂の支度をしていたのだろう。

「・・・まいったな」
神永が口の中で呟いて、身体を離した。
「・・・すみません・・・!!何も見ていませんから!!」
哲二は、そのまま走って外へ出て行った。

「何も見ていません、か」
神永はそういいながら、薪を拾い集めた。
その間に、俺は唇を拭い、シャツを羽織った。

「神永」
「あ?」
「貴様、どういうつもりだ」
「別に。たまたま通りかかったら、貴様があんまり色っぽいことをしてたから、ちょっとからかっただけだ」
「身体を拭いてただけだ」
「田崎」
神永は立ち上がり、振り返った。
「毎晩甘利とやってるんだろ?そのせいで、妙なフェロモンがでてるんだよ、貴様から。無自覚だけどな」
「俺が悪いみたいな言い草だな」
「俺から見れば、お前が誘ってんだよ。今度からは自分の部屋でしろよ。貴様の裸を他の奴が見ると思うと、俺だって気になる」
「言いがかりだ」
「最近の貴様は隙がある。それは貴様の落ち度だ」
そう決め付けると、神永は薪を抱えて庭に出て行った。
哲二の口止めをするつもりなんだろう。

隙がある?この俺が?
まったく言いがかりも甚だしい。
さっきだって、哲二が入ってこなければ、唇を噛んでやるところだった。
神永も多少痛い目をみれば、俺に構うのもやめるだろう。



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