鳩小屋の掃除がすむと、服を変えるために寮に戻った。

「もう済んだのか」
三好だ。
いい気なものだ。
「手伝うんじゃなかったのか?どこへいっていた」
「誰も手伝うなんて言ってませんよ。鳩は苦手なんです」
「猫だけじゃなくて鳩も苦手なのか」
「生き物はね・・・人も含めて」
三好はやや眉根を寄せて、
「あれ?結城さんは?一緒だったんじゃないのか」
といった。
結城さんを待っていたのか。

「新しい藁をとりに行ったよ。農家の人が分けてくれるらしい」
「じゃあ、じきに戻るな」
時計を確かめて、三好は顔を上げた。

俺は三好と分かれ、浴室へ行った。
水を桶にためると、白いタオルを浸して、固く絞る。
シャツを脱いで、それで身体を拭くと、ひやりとしていい気持ちだ。
顔を映している鏡に、人影があった。


「神永」
本能的に、まずいな、と思った。
今は上半身裸だし、浴室にふたりきりだ。
あの一件以来、挨拶もろくにしていなかった。
「鳩小屋か?」
「ああ。結城さんと掃除してたんだ。三好には逃げられたけどね」
「あれ、掃除しても掃除してもきりがないよな」
なんでもない話題。
だが、神永との距離は近い。
俺がシャツを手に取ると、その手を神永が取った。
「そんなに慌てて着なくてもいいんじゃないか?」
「何を言ってる・・・離してくれ」
「甘利なら出かけてるよ」

神永の手が、強く俺の手首を握った。
「一夜だけの約束だ」
「そんな約束、した覚えはないね」
神永の熱い息が、俺の耳にかかった。





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