「いわれなくても、貴様を愛したりはしない」


結城さんは僕のベルトを外した。そのベルトで、もう一方の手をテーブルの足に固定する。口元にはハンカチを噛ませた。猿ぐつわだ。
僕はこれから始まる行為が恐ろしくなった。
まるで、これでは拷問だ。

「そう怯えるな。周囲に声が漏れるといけないから、口を塞いだだけだ。貴様は声が大きいからな・・・あの時も」
あの時?
「佐久間と戯れていたあのときも、随分大きな声だった」

え?佐久間?
それは随分前の話だ。
なぜ、わざわざ佐久間のことを今持ち出すのだろう。
まるで、これでは・・・嫉妬・・・。

「・・・!うぐっ・・・」
結城さんの手が僕の中心に触れるたび、脳幹を快感が突き抜けていく。
キスよりも深い直接的な刺激が、僕に見せる夢は、真紅だった。
赤い薔薇の花びらにうずもれていく様な、酩酊。
それが幾度も繰り返されて、僕の頭は真紅に染まった。

僕の身体の先端から蜜が溢れそうになる。

愛でないなら、これはなんだろう。
ただの、単純な生理現象なのだろうか。

そして、結城さんは、服も脱がない。ただ手袋を外しただけだ。
テーブルにつながれた僕は、なにかの見世物みたいだ。
明日になれば、僕はこの行為を忘れてしまうのだろう。


憐れんでくれ 
私を憐れんでくれ
神の手が私に触れたのだ

そんな聖書の一説が、頭に浮かんだ。

結城さんの手が触れた、この僕を誰か、憐れんでくれ・・・。





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