甘利も田崎もいなくなった、寮はがらんとしていた。

鳩小屋に行くと、三好がいた。
一人かと思って声をかけようとしたら、後ろに結城さんの姿が見えた。

三好がしゃがみこみ、鳩に水をやろうとしている。
その姿を、結城さんは眺めている・・・。

それは一枚の画のように、穏やかな情景だった。
だが、そのとき結城さんの瞳にあるものを認めて、俺は驚いた。

ひかり、だ。

結城さんが三好を可愛がっているのは、なにも秘密じゃない。
皆が知っていることだ。
だが、それはあくまで、D機関員として、優秀だからであって、それ以上の感情があるはずはないと、どこかで思い込んでいた。

二人の年齢差を考えれば、当然の帰結だ。
あるいは立場。
結城さんは当然わきまえているはず・・・。

だが、そんな二人を見ていると、俺も自信がなくなる。
三好が尋問中に結城さんに告白をしたのは、有名な話だ。
結城さんはそれに、心動かされたりしたのだろうか?

「神永」
三好が俺に気づき、立ち上がった。
鳩が一羽飛んできて、俺の頭に停まった。

見ると、結城さんの瞳はいつものように暗く、光のない目に戻っていた。
気のせい・・・だったのだろうか?

「甘利を愛してるんだ」
田崎はそういったとき、一瞬目を煌かせた。
愛。
愛だって・・・?

結城さんが三好を愛してる。
そんな馬鹿なことがあるんだろうか?
そんなはずはないんだ。きっと気のせいだろう。

魔王が人を愛するなんて、そんなはずはないのだから。



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