鳩小屋には、鳩は一羽も残っていない。
掃除をするために、別の場所に移してあるのだ。

「掃除なら俺たちがやりますよ。結城さん」
「そうですよ」
俺と三好が口々に言ったが、
「手伝うのは構わんが、俺の邪魔はするな」
と結城さんは言った。

「随分汚れてますね。神永の奴、さぼったな」
俺が言うと、
「鳩小屋はこんなものだ」
結城さんはいい、丹念に羽根を集めている。
三好はというと、
「鳩小屋に3人は入らないでしょう?僕は遠慮します」
といって、ふらりといなくなった。
本音は三好とふたりで掃除をしたかったのだが、まあ仕方ない。

最近の三好は、やたら警戒心が強くて、俺とふたりになろうとはしない。
別になにかした覚えはないのだが。心のあれが駄々漏れたのだろうか。

俺はついこないだ、神永とはずみで寝た。
プレイボーイを自認するだけあって、技巧は悪くなかった。
だが、深入りは禁物だ。
何しろ俺は、今、甘利にとらわれている。

甘利。
軽薄さが売りだったはずの、あの男が、俺に夢中だなんて、誰が信じるだろうか。
一人の女と半年と続いたことのない男だ。
そして、甘利と付き合って半年が過ぎようとしていた。
そろそろ、彼にも疲れの色が見える。
気まぐれな俺との付き合いは、その辺の女よりも疲れるはずだ。
飽きる様子は見せないが、内心うんざりしているんだろう。
このところ、喧嘩が絶えない。

まあ、それも前戯みたいなものだ。
夜の生活がおざなりってわけじゃないし・・・。
甘利は最近、やたら嫉妬深くなった気がする。
なにか、感づいているのかもしれないな。

「卵だ」
俺は藁の中に小さな卵を見つけた。
オスとメスなら当然に授かるはずのものが、男同士である俺たちにはない。
俺たちは鳩にも劣るのだろうか?
妙な嫉妬心に駆られて、俺は卵を手に取ることができなかった。


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