成功報酬に暗号器。その約束を取り付けて、俺は瀬尾の恋の手伝いをすることになった。
とりあえず声をかけて、嫌われることなく話ができればいい。
そういうから、そのくらいならと引き受けた。

暗号器が手に入る。わくわくする。俺は早速瀬尾をつれて床屋に行った。
面食らう瀬尾の代わりに床屋の店主に指示を出しカットしてもらうとまぁまぁみられるインテリになった。
瀬尾の親父のスーツはサイズが合わない上に不恰好なので、近所に借りに行かせた。小物は今日だけだから、俺のを貸してやることにした。

風呂に入って、身支度をすると、なかなかの男前だ。
ひょろひょろして猫背が目立っていたのも、たすきで肩を固定して、コートを着せたら貫禄が出てきた。それどころか、散髪したばかりの襟足が、爽やかで色気さえある。
・・・ちょっとムカつく。

「波多野さん、ありがとう、ありがとうございます」
瀬尾はもう終わった気でいるが、これからが難しいからな。
「瀬尾さん、女と話ができるのか?」
「・・・・・・」
やっぱりな。
「じゃあ、俺をその女だと思って話しかけてみて」
その途端、瀬尾の顔が真っ赤になった。
想像でこれじゃあ、かなり難しい・・・。
「な、何て言ったら・・・」

「まぁ、無難に、<どこかでお会いしませんでしたか?>って言うのは?相手は<いえ>って言うだろうから、<そうですか?あぁ、もしかして先週もこちらにいらっしゃいましたか?>って言うんだ。そうしたら、誰かと待ち合わせしてるのかとかそのくらいは話が出きるだろ?」
まぁ、話をするだけでいいならそれで十分だろ。
瀬尾はナルホドナルホドと言いながら、メモをとっている。
「じゃあ、やってみて?」

「は、はい!・・・あ、あ、あの!どこか!行きませんか!」
「は?」
「好きです!」
瀬尾は顔を真っ赤にして抱きついてきた。
「ちょっちょっ!?瀬尾さん!おい!なにやってんだよ!」
こういうときだけなんでこんなに力が強いんだ!

「好きです!好きです!好きです!」
「いや、だめだろ!落ち着け!落ち着けって!やめろ!」
俺は女じゃない!それに実井でもない!

このままじゃ、唇を奪われる!そう感じた瞬間、俺の左手が本能で動いた。
がっ!と鈍い音をたてると、瀬尾の力が抜けて崩れ落ちる。
俺は息を整えながら、幸せな夢を見ようとしている瀬尾を畳に転がした。
永遠に眠っててくれ!

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