先週は散々だった・・・。あんなに瀬尾が面倒くさい奴だとは、思わなかった・・・。
まぁ、実井の喘ぎ声という起爆剤を投入した俺も悪いのか・・・。

なんにしても、一日休日を潰した俺に、
「こんな楽しい日は初めてだ!」
と満面の笑みで感謝をした瀬尾は、バッテリーの他に、以前から俺が目をつけていた真空管まで土産に持たせてくれた。
これなら、前に断られた暗号器も売ってくれるかもしれないな。そんな期待を胸に、今週も瀬尾の店に行くことにした。


「波多野、町に行くの?」
コートを羽織り、ドアに手をかけると、実井に声をかけられた。ぎくっとした。
これから、お前の声にべた惚れの男の話し相手になりにいく、とは言えないな・・・。
「ああ、・・・買い物だ。貴様は?」
「僕は今日は読みたい本があるから、一日のんびり過ごすつもりだよ」
「ふーん、じゃな」
俺はひらひらと手を振ると、ポケットに手を入れた。
後ろから実井が少し笑いながら言った。
「波多野は冬だとポケットに手を入れるんだね」

・・・くたばれ!
瀬尾金物店。
その引き戸に手をかけながら、俺は身構えた。
・・・よし!
「こんちわ」
「波多野さ〜〜〜ん!!!」
キタッ!
俺は突進してくる瀬尾をかわして狭い店内すれすれに瀬尾の背後に手を回し、上着の襟をひっつかむと、足で膝の裏を押してやった。瀬尾は勢いに殺されて、店の入り口に正座して大人しくなった。
呆気に取られたまま通りを眺めるから、外を歩いていた近所の奥さんに挨拶までされている。笑える。
「波多野さん〜」

「あぁ、すまない。あんまり勢いがいいから避けたんだけど」
「そうそう!聞いてくださいよ!」
瀬尾はまったく何事もなかったかのように俺を座敷に通して話始めた。
「見つけたんです・・・!」
「え?な、なにが?」
まさか、実井だってばれたのか!?
俺は冷や汗をかきながら尋ねた。

「だから、あの声のイメージにそっくりな人です!もう、実在するなんて信じられないです!いや、いるに違いないんですけど俺の想像通りで、あぁ、でも、ワンピースがあんなに似合う人だとは思いませんでした!」
「ど、どこに?え、ワンピース?」
「ワンピースですよ!真っ青なワンピースが可愛らしいんです!あぁ、話がしてみたい!声が聞きたいなぁ〜!ほらほらこれ!この絵にそっくりな人ですよ!はぁぁあぁ〜。これが恋っていうやつなんですね〜」

どうやら、実井に似た女を見つけたらしい。こんな引きこもりが一体どこで、と思うが、録音盤の声の人のことを考えすぎて、何らかのセンサーが働いたとした思えない。超人だ。
「で、どこで?」
「あ、はいはい、あの、東京駅から見えるカフェです。駅のほうをなんだか悲しげに見つめていると思ったら、この絵にそっくりな人だったんです。だから、間違いないですよ!恋人を待っているんです!別れた恋人を!もう来ないとわかっていても待ち続けてしまうんですよ!」
はいはい、わかったから。
「それで、波多野さんお願いです!」
「へ?」
突然のお願いに、俺は間抜けな声をだした。

「俺、あのひとにどうしても話しかけたいんです。ですけど、こんな格好じゃ笑われてしまいます。波多野さん、協力してくれませんか?」


















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