「来ると思ったよ」
波多野が言った。


「尋問に入る直前、貴様は三好に耳打ちをしていたらしいじゃないか。お得意の催眠暗示だろう?」
実井の声は低かった。
「誘導、といって欲しいな。さっきのは奴の本心さ。俺はそれを誘導しただけ・・・」
「何の為にそんなことをしたんだ」

「貴様、結城さんが好きなんだろう?」

波多野は口を歪めて言った。
「だからさ。これで奴は結城さんの特別になった」
「・・・」
「貴様の出る幕はもうない」

実井が波多野の胸倉を掴むと、反対に肩を掴んで、波多野が実井を床に押し倒した。

「どいつもこいつも結城さん結城さんって、おかしいんじゃないか?」
実井が苦しそうに顔をゆがめる。
「・・・っ」
「あんな手足の不自由な老人のどこがいいんだ?」
「・・・結城さんを愚弄するな」
「ふん、貴様にいたっては、もっと始末に終えない。
言い寄られれば、・・・誰にでも足を開く癖に」


波多野はそう言うと、実井の手を振り解き、床に押さえつけた。

「俺も貴様を鞭でぶちたくなってきたぜ・・・自白剤を打ってな」
言いながら、波多野は実井の耳元を舐め上げた。

「そうしたら貴様は誰の名前を呟くんだろうな・・・?結城さん?神永?田崎?それとも・・・この俺か?」
波多野の手が実井の下半身をまさぐり、ズボンの中に滑り込もうとしたとき、


「やれやれ。俺を本気にさせるとは、馬鹿な奴だ」
別人のような凛とした、実井の声が響いた。

「お仕置きが必要だな」



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