(別バージョン)


「・・・本当に良かったのか?お前」
神永の声は優しかった。
「いいんですよ・・・」
神永の腕枕にもたれながら、実井は本棚の置き時計に仕掛けられた盗聴器のことを考えていた。
「お前さ・・・こういうの、はじめてじゃないよな?」
ためらいながら、神永が言った。
実井はそれには答えず、
「明日は早いんでしたね・・・僕は部屋に戻りますよ」
起き上がろうとする、実井を、神永の腕が引きとめた。

「一度きりって、言ったよな・・・あれ、本気か?」
「ええ。これ以上迷惑はかけられない」
「迷惑だなんて・・・冷たいこと言うなよ」
傷ついたような神永の声。
「お前さえ良ければ、俺は・・・これからだって・・・」
「忘れてください」
実井は俯いた。
神永を利用することに罪悪感を感じるほどお人よしじゃない。
「わかった・・・しつこくして悪かったな。行けよ」


明け方、部屋に戻った実井を波多野は待ち構えていた。

「ゆうべは随分愉しんだみたいだな・・・」
波多野が言うと、
「命令どおりにしただけですよ」
悪びれずに実井が答えた。

「貴様・・・結城さんが好きなんじゃなかったのか!?」
波多野が叫ぶと、
「ひとりにしなきゃ駄目なんですか?」
そう問い返す。
「・・・誰でもいいのかよ・・・貴様」
「貴方に関係ありますか?」
「・・・じゃあ・・・」

波多野は実井の腕を掴むと、服の上から自分の硬くなった下半身を触らせた。
実井は驚いている。
「誰でもいいんだろ?口に入れてみろよ」
「え・・・でも・・・」
「目を閉じれば、誰だって同じだろ・・・」

波多野の本気が伝わったらしく、実井は大人しく床に膝をついた・・・。


「よぉ、調子はどうだ?」
神永だ。眠れなかったらしく、目の下にクマができてる。
「上々ですよ・・・貴方は?」
「正直言うと、眠れなかった」
苦笑して、
「さっき、波多野に会ったら、すげー睨まれたよ。何でか知らないけど」
「まだ、機嫌悪いんですかね」
だが、今朝の波多野と自分の声のテープ。
これを見せたら、もっと機嫌は悪くなるはずだ。

「波多野と何があったのか知らないけど・・・」
神永は、実井の頭をぽんとはたいた。
「落ち込んだら、また俺のとこに来いよ。俺様が慰めてやるからさ」

本気とも冗談ともつかないような口調で、神永は言った。

お人よしだな、と実井は半ば呆れ、半ば感心した。











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