食堂で、実井は浮かない顔をしていた。
「どうした実井。大丈夫か?」
小田切だ。
「ああ、小田切さん・・・なんでもないです。僕、ちょっと神永さんに用事があって」
「神永なら娯楽室にいるよ」

「神永さん・・・ちょっといいですか?」
「なんだ、実井、相談ごとか?」
神永は、雑誌を片手に振り返った。
「ええ、ちょっと他の人には聞かれたくない話なんです」
「そうか。じゃあ、俺の部屋に来いよ、丁度戻るところだから」
ふたりは娯楽室を出て行った。

よし、計画通りだ。
波多野は時計を見た。9時を回っている。
神永の部屋には盗聴器が仕掛けてある。
実井には、ある任務が課されている。
およそ欠点の見つからない神永を脅すには、いい機会だ・・・。
波多野はこっそりと自分の部屋に戻り、待機した。
ヘッドホンを嵌めて、音量を調節する。
会話が聞こえ始めた。

「相談ってなに?適当に座れよ、実井」
「それが・・・僕・・・実は・・・」
ガタン、となにかが倒れる音。

「ちっ、聞こえねー」
波多野はボリュウムをあげた。

「発情期なんです」
「・・・・発情期?」
「朝から気分がもやもやして、いてもたってもいられなくて。誰でもいいから僕を慰めてくれる存在が欲しくて・・・」
「ちょ、ちょっと待て、実井。相談ってそれ?性欲のこと?」
戸惑った声。

「くだらねー話してやがんな」
波多野はいらっとした。

「そうなんです。僕、生まれつき性欲が凄くて・・・あ、これ、誰にもいわないで・・・」
「あ、ああ・・・いわねーよ・・・いわねーけど・・・」
ガタガタン。
「ちょっと待て・・・実井・・・貴様・・・」
衣擦れの音。どうやら服を脱いでいるらしい。

会話はともかく、内容は計画通りだ。
実井は神永を誘惑し、その会話を録音する。
それをねたに脅す予定であったが・・・。

「一体どこまでやる気なんだ?」
波多野は焦りを感じた。
だが、盗聴している身分では、どうすることもできない。

「実井、お前・・・本気なのか」
「冗談でこんなこと・・・できません。一度だけでいいですから・・・僕・・・」
ちゅっ、と唇を吸う音がした。
音は反復し、だんだんと喘ぎ声が紛れてくる。

「あぁ・・・やばい・・・ちょ・・・待て・・・」
どすん、と何かが倒れた音。
「感じませんか?・・・ここ」
「めちゃくちゃ感じるよ・・・実井・・・お前・・・天才か?」
「あっ」
小さな悲鳴を上げて、それから喘ぎ声が続いた。
「はあ・・・ああ・・・あぁ・・・うう・・・」

「あいつら・・・最期までやる気かよ・・・ざけんな・・・」
波多野は我知らず暗い怒りを燃やした。
聞いていられない気分になったが、それでもどうなるのか先が気になりすぎて、盗聴をやめることができなかった。

声はだんだん激しくなり、やがて絶頂を迎えたと思われる小さな悲鳴と。
静寂が闇を包んだ。

波多野は息を詰めて盗聴を続けていた。
何度濡らしても唇が乾いた。

「あいつ・・・」
声に反応してしまった下半身を忌々しく思いながら、波多野は盗聴器を引きちぎった。
















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