「・・・貴様、わかってないようだな・・・」
切れた唇を手の甲で拭いながら、波多野は笑った。
「俺は貴様を盗聴してたんだぜ?録音テープのコピーは安全な場所に隠してあるが・・・。
貴様が真夜中に自分で自分を慰めていた時、誰を想像していたのか・・・俺は知ってるんだぜ?」
その言葉を聞いて、上気していた実井の頬は青ざめた。
「貴様・・・なにを・・・」
「今聞かせようか?なかなかよく録れてるから、一緒に愉しもうぜ」
「やめろ!」
波多野は再生ボタンを押した。
ラジオから流れてくる音声は、確かに・・・。
「・・・はぁっ」
「・・・はぁ」
「・・・ああっ」
「・・・・・・・・うっ・・・」
「やめろ!波多野!頼む!やめてくれ!」
実井は床に身体を伏せると、這いつくばって土下座をした。
「この後にある名前が入っているんだ。俺も意外だったが・・・まさか貴様が・・・ね」
「頼む!波多野。なんでもする、なんでもするから・・・」
「急におりこうになったじゃないか・・・」
土下座をする実井の頭を、波多野はしゃがんで撫ぜた。
「<燃やす>、ってこういうことなんだろうな?勉強になったろう?」
敵を寝返らせ、手玉に取るには恫喝するのが一番だ。
波多野は授業で習ったスパイの知識を、早速試しただけだった。
「なんでもするって、言ったよな?」
いい気分だ。
「貴様、犬になれよ」