まだ、D機関が出来たばかりの頃・・・。


「波多野!君だろう!僕の部屋に盗聴器をいっぱい仕掛けたの!」
箱にいっぱいの盗聴器を抱えて、実井が波多野の部屋のドアを思い切り開けた。

「なに言ってんだ貴様?俺だという証拠でもあるのか」
波多野は本を読みながら、顔も上げないで答える。
「しょ、証拠はないけど、これから見つけるさ!」
実井は、そういって、波多野の部屋の本棚の本を片っ端から落とし始めた。

「貴様!なにをする!」
「証拠、証拠さえあれば・・・」
「人の部屋を勝手に荒らすなよ、おい!このチビ!」


「上の部屋が騒がしいな」
と小田切が言った。
「波多野と実井だろう。いつもの痴話げんかだ」
と福本。
「本当に仲が悪いんだな、あいつら」
と小田切。
「いや・・・どうだろうな」
福本は言葉を濁した。

自意識の強すぎるD機関の学生たちの学生寮である。揉め事は絶えない。

「どういうきっかけで、仲が悪くなったんだ?」

「たいしたことじゃない。波多野が実井をチビ呼ばわりしていたんだが、実際に測ってみたら、波多野のほうが背が低かった。そんなところらしい」
「それで波多野はいつも実井を苛めているわけか・・・傍で見ていて心配になるな。いつか殺すんじゃないかと思って・・・」
「波多野ならやりかねんが、まあ、そうはならないだろう、多分」
福本は新聞を畳みながら、

「今夜は開いているんだろ?一杯どうだ」
「悪い。野暮用でね」
と小田切。
「ふられたか」
と福本。

「あった!」
実井が勝ち誇ったように、本棚に隠されていた盗聴器の残骸を見つけた。
「どーでもいーけど、片付けるの手伝えよ」
波多野は悪びれずに言い、首を回して鳴らした。
「少しは反省してるんですか?」
「反省?なんで」
「・・・反省の色はなし、と。上に言いつけますよ」
「あぁ、それ無駄」
「無駄?」

「俺が作ってるのは結城さんに頼まれた奴だから。試しに貴様の部屋に仕掛けただけで、結城さんも公認だ」
「・・・なんだと?」
聞いていない。結城さんのお気に入りを自負している実井にとって、それは屈辱だった。
自分を差し置いて、波多野に頼みごととは。

「貴様は独り言が多いな」
ぼそっと、波多野が言った。
「なかなか色っぽい声も聞こえてきて、面白」

いい終わらないうちに、実井は波多野の頬を思い切り殴りつけた。
白い肌は上気して、ほぼ真っ赤になっている。
「最低だ」
吐き捨てるように言って、実井は唇をかみ締めた。






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