実井を部屋に降ろし、水を持ってくるため階下に下りた小田切は、蛇口の水をひねると、コップに注いだ。

それにしても、あの二人。卑劣極まりない。
あの大人しい実井を、二人して陵辱せしめるとは・・・。
確かに、実井は美少年といっていいほど、可愛い顔立ちをしているが。だからといって・・・。

小田切が部屋に戻ると、実井はベッドに腰をかけていた。
「・・・・おい、もう平気なのか?」
実井は、小田切の差し出した水を受け取り、
「なんのことです?モルヒネ?あんなもの僕には利きませんよ」

「しかし・・・貴様は確かに、奴らの言うなりになって」
「神永と波多野が何をするのか、興味があって、じっとしていただけですよ、どうせたいしたことはできませんよ。神永も本気じゃなかった」
「なんだと?」

「たぶん、貴方が邪魔をしなければ、途中で波多野を裏切り、僕を守ってくれたでしょう。神永はそういう性格ですよ。悪役には徹しきれない・・・」

「なぜ奴らを庇う。貴様は被害者だろうが」
実井の考えがわからず、小田切は尋ねた。
「被害者とは弱きものがなるんです。・・・それは僕じゃない」
コップの水を口に含んで、実井はわずかに顔をしかめた。
「ちっ・・・舌が痺れてやがる」

「強がりもほどほどにしておけよ」
小田切が呆れて、空になったコップを受け取ると床に置いた。

「小田切さん、僕はね」

実井は一瞬躊躇うような顔をしたが、言葉を続けた。

「この程度のことは、なんとも思わない世界で生きてきたんですよ。幼い頃からずっと・・・貴方には想像もつかないでしょうが」
なにを言っているんだ?
実井が、小田切に打ち明け話とは・・・。

「僕は、貴方や、ほかの人たちとは違う・・・結城さんに拾われなければ、きっと今頃・・・」
「よせ、実井。過去の話は・・・禁止事項だ・・・」
小田切は、実井の過去を知れば、平常心でいられなくなるような気がした。
同情、それは命取りだ。
同情するとは、惚れたということだ・・・。

「なんなら、僕はさっきのお礼に、貴方と寝たっていいんですよ」

媚態だ、と小田切は思った。
だが、狙いはなんだ?
さっきの事件の口止め料といったところか。

「断る。貴様も、もう自分の部屋に行け」
小田切は乱暴に実井を追い出したが、内心その心は揺れていた。



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