小さな音をたてて、腕時計が床に転がった。

壊れていないだろうな?慌てて拾い上げると、耳元に運ぶ。
チッ、チッ、チッ、チッ、・・・音を確認して机に載せた。
それから、ふりかえって起こしていないか確認する。
この部屋の主の姿を。
福本は、優しい寝息をたてていた。

ホッとして、そうっと扉に近づくと、音を立てないように慎重にドアを開け、身を滑らせるように部屋からでた。
深夜の廊下は誰もいなくて、ただ春の少しだけ緩んだ空気が身を包んだ。

深いため息をついた。
自分の部屋に戻りながら、自分の理性に従わない身体を恨む。
福本の言葉に甘えて、俺は夢のせいにして、この持て余した身体を彼に任せてしまう。快楽は、麻薬のように身体を支配してしまう。俺は、弱すぎる。

自分の部屋のベッドに転がると、福本の眼を思い出す。
俺と身体を重ねる度に、苦しそうな顔をする。
その理由を分かっている。
分かっているから、余計に聞くことが出来ないんだ。
応えられないから・・・。それなのに・・・ああ、どうしてだ。

小田切は両手で自らの身体を抱きしめるように身体を丸めた。
抑えようとしても次から次へと沸きあがってくる淫らな熱に吐息を漏らす。
身体の奥が熱くて熱くて、じりじりと焦がされるようで苦しい。
掌が触ったところから、肌が福本を思い出して、切なく彼を呼ぶように疼く。
「・・・っだめだっ」
頭を振って、ベッドから起き上がると、サイドテーブルにおいておいた水差しから、水をコップに注いで一気に飲み干した。
お前しか考えられない・・・。

こんな状態で、まともな判断などできるものか・・・!




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