目を開けると、静かな朝の日差しが差し込んでいた。
後ろから俺の身体を抱きしめている腕に気づいて、そっと触ると、腕に微かに力が入って怯んだ。

おきようかと思ったが、身体中が酷く痛んだ。
その途端、昨夜の行為が思い出されて、身体の奥底から熱が湧き出てくるようだった。
眉をひそめ、目を瞑る。
まだ、夢の中にいたい。

ため息をつく。お前も同じ気持ちでいるのだろうか。
俺は、こんな気持ちをお前に強いてきたんだろうか。
でも、大事な友達だといった気持ちを変えるつもりはない。

真っ黒な孤独には、<友達>ぐらいしか遠い未来繋がっていられないように感じる。
<恋人>は、きっと、望みすぎだ。お前の弱点にはなりたくない。お前を縛りたくない。俺たちはスパイなんだから。
「俺を恨んでいるかな・・・」
自惚れか、と考え直す。
福本はきっと俺の気持ちをもうわかっている。わかっているからこそ、夢だといったんだ。ただ一夜の夢だと・・・。福本が動いたような気がして、もう一度後ろを向く。

「・・・っ!」
息が止まりそうになった。
あの眼で俺を見つめていた。心臓がドクドクと音を立てる。身体中が赤く染まって、全身の力を吸い取られるような気がした。
そのまま、その顔が近づいてきて、唇に強い熱を感じた。

口の中にブランデーの薫りが広がった。二日酔いみたいだ、と思った。
熱い舌が、口中を記憶に焼きつけようとするようになぞっていく。甘い薫りに包まれて、俺は切なさがこみ上げてきた。やがて、名残惜しそうに離れていく唇。
「ふく・・・もと・・・」

何か言わなくては、どう言ったらいいんだろう?俺がつい黙り込んで逡巡していると、野生動物のような眼がふわっと色を変えた。
「小田切・・・おはよう。もう、こんな時間か、つい寝過ごしたな。早く支度しないと、結城さんに叱られてしまうな・・・」
と慌てているような、のんびりしているような、そんな調子で、何事もなかったようにいうと、福本はベッドを降りた。
「福本・・・!」

切なくて、もう一度呼ぶ。
「小田切、・・・二日酔いなら・・・、無理はするなよ。俺がうまく言っておくから・・・」
大きな掌を俺の頭に載せて、子供にするように撫でた。
「福本、本当みたいな夢を見たんだ・・・。だから、俺はまだ夢を引きずっていて・・・」
搾り出すように言った。

「福本、すまないが少しだけ目を瞑っていてくれないか」
そういうと、俺はベッドから出て、福本の胸元に抱きついた。
共鳴するようにドクドクと鳴る身体が吸い付くようだ。俺はゆっくり薫りを嗅いだ。
自分のことしか考えられない。
福本、すまない、俺は酷い男だ。










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