脇を抱えられるようにして部屋へ入ると、だるくてもどかしい身体をベッドに投げ出した。
ベッドからは身体を包み込むような薫りがして、頭の芯まで酔いが回ってくる。
「小田切・・・」
耳元に低くて、甘い声が響くと、自分がどうにかなりそうな危うさを感じた。
いつも、そうだ。
お前の声で、薫りで、俺は自分を抑えられなくなる。まともでいられなくなる。
友達だと言い聞かせて、感覚を閉じてしまわないと、きっと、俺は。
・・・堕ちてしまう・・・。

「香水でもつけているのか」
そう福本が聞いたあのとき、俺は初めて福本がブランデーをあまり飲まないことを知った。
いつも薫るあの薫りはブランデーじゃない。おそらくあれは・・・。
そう思い至った時、福本と出会ってからブランデーを好むようになった自分に気づいて困惑した。
するとそんな俺から花の薫りがすると言われた。
それはつまり・・・そういうことじゃないか。

福本はいずれ気づく。
その時、俺は壊れないでいられるだろうか・・・
「飲みすぎたみたいだ」
自分に言い聞かせるように呟いた。
この気持ちはブランデーのせいだ。
「・・・そうだな」

福本が介抱するように俺の服のボタンを外していく。
ネクタイも外して、シャツも広げられたのに、寧ろ息ができなくなって、苦しさに眉をひそめた。
だめだ・・・っ、堕ちる・・・!

すがる場所を探して、手を伸ばすと、手首を強く握られる。
「・・・小田切、心配要らない。これは、夢だよ。酔いすぎて幻覚を見てるんだ。夢だ。だから、何も心配するな」

すべてわかっているような表情で、福本は俺を見た。
そうだ、これは夢だ。強い酒の薫りが誘う夢だ。
「福本・・・助けて・・・」
解放してくれ。この長い苦しみから。
「すぐ、楽にしてやる」
そういった福本は、いつもの仮面を取り去って、酷く美しく笑った。

肩越しに見えた月は、弓のように細く、酔った俺を不躾に照らしたりはしなかった。それが心底ありがたいと思った。
一夜の夢だ。だったら・・・

今夜だけは理性なんていらない。心が欲するままに、お前を手に入れてもいいんだろう・・・?
シャツを脱ぎ捨てて、ベッドの横に立つ福本の腰に手を回すと、福本も俺の頭にキスを落とした。
そして、首筋、肩、鎖骨、胸と唇で触れていく。

痛みも息苦しさも、狂おしいほど愛しくて、貪るように抱き合った。
暗闇の中に、二人の息遣いと、肌が触れ合う音が響いて、強い薫りは次第に深く重なり合った・・・・・・。

何も考えられなかった。ただ、お前を感じていたかった。








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