「今日は福本は一緒じゃないのか?」

「あぁ、洋酒は酔いすぎるからやめておくそうだ」
「はっ、なんだか変な面子だな。まぁ、俺は飲めるならなんでもいいが、うるさいからって追い出さないでくれよ」

神永はそういうと、持っていたグラスを田崎と俺に向けて乾杯した。

夕食後、田崎がbarに行くからどうだ?と聞いてきた。
少し考えてから、先に歩き出した田崎たちの後を追いかけて、このbarにやってきた。
福本は、やはり少し考えていたが、寮に帰っていった。

「貴様こそ、甘利は一緒じゃないんだな」
そう田崎に聞くと、きれいな笑みを浮かべて、
「たまにはね」
と意地悪そうに言った。

「だからぁ、貴様は体型がいいからスーツがよく見えるんだ。どこで仕立てたとか関係ないんだよ」
神永が少し酔った声で、田崎につっかかる。
「神永だって着こなしているだろ?他人はよく見えるものだよ」
「俺なんかな、前、調査のためにあの野郎のいるテーラーにいったんだが、どうにもあいつの勧めてくるスーツのセンスが合わなくて別のがいいって言ったんだ。そしたら!」
「え、仕事中に文句を言ったの?」
「そうだよ、そしたら!お客さんではこちらはちょっと・・・とか言ってあのすかした顔で笑いやがってよ!」
いや、かなり酔っている。

俺は、二人の会話を聞きながら、マスターにおかわりを頼んだ。
「小田切、まだ飲むのか?ほんと今日は珍しいな」
田崎が少し心配そうに言った。
「小田切は俺と飲むのが楽しいんだよ」
神永は上機嫌にグラスに残った水割りを飲み干すと、
「ロックを頼むよ」
とマスターに言った。

横目に笑いながら、俺はグラスを口に運んだ。
口に含んだブランデーは、甘い香りを振りまいて身体に溶けていった。
いつもならすぐに酔って終わりにするのだが、今日はいくら飲んでも足りなかった。
もっと酔ってしまいたかった。


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