「女との相性を見るのに一番簡単な方法は、匂いだな」

ジゴロの講習をするのに呼ばれた真島は黒板に、「匂い」と書きながらそういった。

「所謂フェロモンというやつだが、女がその気になったときに強く匂う。勿論男もだ。男の匂いが好きだという理由だけで落ちる女は少なくない。逆にその匂いが嫌で離れる女も多い。自分の匂いが相手の好きな匂いかどうか、それを知ることができれば、格段に交渉がはかどる」

そう言って真島は、鞄からいくつかの小瓶を取り出した。

「これは俺の貴重な商売道具だから大事に扱ってくれよ」

そう言って中に入れた液体を少量紙につけて回す。
「フェロモンは香水で誤魔化したり、誘導したりもできる。日本の女性はこういった匂いが好きみたいだな、反対にドイツの女性は・・・」

・・・福本は、以前受けた講義を思い出した。
(もしかして、小田切の薫りはそれなのだろうか)
そう思い至った。

男が好む香水も、そのときは嗅いだが、同じ匂いはしなかった。むしろ、気持ち悪くなった。だが、小田切の薫りは・・・
福本は、うっとりした顔で窓の外を眺めた。
雪が降りそうな空の下には、当然花など咲いてはいない。
しかし、小田切を思い出すと、高原に咲き誇る無数の花が、眼前に浮かび上がった。

「惚れてるってことか・・・」
福本は苦笑した。
それと同時に、ある可能性も頭から離れなかった。
なぜ、小田切から花の薫りがしてきたか・・・。

期待してはいけない。しかし、福本はその可能性がどうしても気になった。
「とらわれては、ならないが・・・」

高原に咲き誇る花は摘んではいけないのだろう。
しかし、そのままにしておくことが俺にできるだろうか・・・。

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