「小田切・・・貴様、香水でもつけているのか?」

今日の訓練が終わって、外に食事に出ることになった。
自然とみんなの最後を歩いていた小田切と俺は、なんということもない話をいつものようにかわしていた。

あれ以来、小田切は俺に何も哲二君のことや、あの夜のことを言ってこない。
俺も言うつもりはなかった。
だが、ひとつだけどうしても気になって、確認した。

「香水?」
「そうだ、花の薫りのような・・・」
「つけていないが、なにか匂うのか?」
小田切はそういって、自分の腕の匂いをかいでいる。

薫るのか?と言われると困る。
「いや、今はしない・・・」
「いつしたんだ?」
「・・・」

いつ、なんていえない。言えば、あの夜のことを話題にしなくてはいけない。
「いや、気のせいだろう」
そう言って、またのんびり歩いた。
すると、小田切はまた腕の匂いを嗅ぎながら、
「石鹸か?」
と聞いてくるから、俺は首を振って、自分の腕を差し出した。

「石鹸ならこういう匂いだろう?それとは違う」
「違うのか?」
そういうと、小田切は俺の腕を掴んで、熱心に匂いを嗅ぎ始めた。
こういうことを平気でするから困るんだ。
俺が平静を装って、顔をそらした。
「あ、この匂いか?ブランデーみたいな・・・」
「そんな匂いじゃない。ブランデーみたいな匂いなんかしないぞ」

「そうか?お前は時々そんな香りがするんだが・・・ブランデーが好きなんだな」
「酒は滅多に飲まない」
俺は不思議に思って小田切を見返した。
顔が近くて、つい眼をそらしたが。

その瞬間、またあの花の薫りが漂ってきた。
「あ、これだ。この薫りだよ・・・」

小田切に視線を戻すと、心なしか頬の赤い小田切が俺を見つめていた。




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