佐久間は三好の手を引くと、そのまま廊下に出た。
長い廊下をずんずんと歩いていく。

「おい!待て!何を考えているんだ、貴方は」
三好は呆れて、引きずられるようにして、後についていく。
佐久間は黙ったまま、三好を引きずっていき、空いている部屋を見つけて、そこに三好を乱暴に押し入れた。
そこは布団部屋だった。
狭くて、月明かりが差し込むだけの、暗い部屋だ。
三好は佐久間が乱暴なのに驚いている。
あの程度の酒に酔ったというのだろうか・・・。

佐久間は三好の喉元に日本刀を突きつけた。
「誓え」
「なにを」
「これからは、俺にしか手を握らせないと」
佐久間の目が据わっている。
たったあれだけのことで、こんなに嫉妬に狂ったのだろうか?
「・・・佐久間」
「誓え」
「・・・誓うよ、だからこれをどけて」
三好が言うと、佐久間は日本刀を投げ捨てて、代わりに三好を抱きしめた。

「貴様、いいにおいがするな・・・」
「におい?ああ、おしろいのにおいだろう」
「そうじゃない。甘い・・・」
押し倒された拍子に、鬘が取れた。
佐久間の唇から酒臭い息が吹きかけられる。
三好は佐久間を押しやった。
「酒臭い」
「・・・いいだろ?」
佐久間は三好を引き寄せて、乱暴にキスをした。
「・・・っはぁ・・・」
息ができない。
佐久間の手が帯にかかった。
「下着をつけているのか?」
「・・・つけてるよ」
「駄目じゃないか。着物の下は素足と、相場が決まっているのに」
佐久間は少し笑ったようだった。
帯が解かれた。
佐久間の手が、下着に伸びようとした、そのとき、
「こんなところで、逢引ですか」
布団部屋に実井が入ってきた。

「貴様か。邪魔をするな」
佐久間が言うと、
「邪魔はしませんから、僕も混ぜてください」
「なんだと?」
「手伝いますよ」
言いながら、実井は三好の手を、着物の下紐で縛り上げた。
「実井、貴様」
「あとで絡みましょうって、約束しましたよね?」

「あら、社長さん、どこへいったのかしら」
結城じいさんが、飲んでいた部屋では、若い仲居が不思議そうに辺りを見回した。
「おトイレかしら」

布団部屋の襖の隙間からは、覗き込む目があった。
結城じいさんである。
結城は、三好が佐久間と実井に手篭めにされる様子を、じっと見守っていた。
彼らはあまりにも若くて、自分は年を取っている。
自分の出る幕ではない。

だが、佐久間が三好に押し入った時、三好は思わず叫んだ。
「あっ・・・ゆう、き、さん!・・・」

馬鹿め・・・。
結城はいつもの口癖を呟いて、その場をあとにした。
愛しさが胸に募る。が、そんなものに囚われるわけにはいかなかった。


















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