神永「乳首について考えていたら一日が終わってしまった」
結城「囚われたら、終わりだ。そういっただろう・・・」
実井「結城さん、芸者が花代の回収に来てますよ」
結城「もう少し待てと伝えろ!必ず払うから!」
神永「あーあ、結城さん、花代の代わりに三好と実井が連れてかれちゃいましたよ・・・」
結城じいさん「ほう?それなら私もまた行ってこようかな、ほっほっほっ」
神永「懲りないじーさんだ」


<料亭花菱>

「なんでこの僕がこんな格好を・・・」
三好は舌打ちをしながら、自分の格好を鏡で眺めている。完全な芸者。
「三好さん、こうゆうの好きなんだと思ってましたよ。僕は」
実井は、案外愉しんで、舞妓の格好をしていた。
「誰がスキだって?・・・まぁ、女装の参考にでもすればいいか・・・」
「十分似合ってますよ、三好さん。手篭めにしたいくらい」
「手篭めってなんだよ。古風な言葉知ってるな」
「よかったらあとで絡みませんか?」
「貴様と?冗談だろう・・・」
そのとき、襖が開いて、名前を呼ばれた。
「三好さん、実井さん、お客さんですよ」

長い廊下を歩きながら、三好は嫌な予感がしていた。
「おい、知り合いに会うんじゃないだろうな?どんな客ですか」
「なんでも、陸軍の偉い方たちみたいですよ」
「陸軍の」
「まずいですね」
と実井が囁いた。

部屋の襖の前に来ると、襖がすっと開いて、一人の男が顔を出した。
「おっと、待ってたんだ・・・げげ、三好!?」
「佐久間」
「なんて格好してんだよ?貴様、そーゆー趣味か?」
「こっちにはいろいろ事情があるんですよ」
「事情ってなんだよ、話してみろよ」
「いや、いい。貴方には関係ないから」
佐久間を突っぱねて、三好は部屋に入った。

中には、年配の男性が3人と若い男がひとり、配膳を囲んでいた。
「おお、よく来た、よく来た。名前はなんという」
「みよしの、と申します」
「みよしの、か。可愛い名前だな、顔も可愛いが」
男たちは上機嫌だ。
「おい、どうゆうつもりだ?」
佐久間が引いた手を振り払い、
「仕事だ。邪魔をするな」
三好は冷たい目をした。

「そっちはなんていうんだい?」
「実井です」
「実井、ふむ・・・そっちもなかなか色っぽい」
男は杯を差し出した。
実井はすかさず酌をした。手馴れている。
いつも結城のお供をさせられているので、舞妓や芸者の真似をすることなど、造作もなかった。
「みよしの、こっちに来い」
真ん中に座っている男が、三好を呼んだ。三好が側に行くと、強引に肩を抱いて、杯に酒を注いだ。
「さあ、お前も飲め。神の水だ」
「はい、頂きます」
三好が杯を飲み干すと、再びなみなみと酒が注がれた。
「さあ、飲め」

「武藤大佐」
佐久間が割って入った。
「俺が、代わりに」
「・・・貴様を酔わせて、どこが愉しい」
「そうおっしゃらずに」
「・・・・」
武藤大佐は、杯を三好から取り上げると、佐久間に渡した。
佐久間は杯を受け取ると、ぐっと飲み干した。

「なかなか、いけるな、貴様」
「頂きます」
また酒が注がれた。武藤大佐は、今度は三好の手を撫でまわしている。
佐久間はというと、じっと何かに耐えるように杯を見つめたまま、微動だにしない。

きれるなよ、佐久間。
三好の赤い唇が、そういっているようだった。














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