ハーメルンからベルリンに向かう道を、僕はハンドルを握った。
田崎は助手席に座り、煙草をふかしている。

「眠くなってきたな」
「別に寝ればいいだろう」
「そうじゃなくて、少し休憩しないか?もう3時間も走ってる」
田崎は言った。
僕はちらりと時計を見て、
「もう少し距離を稼いでおきたい。トイレか?」
「そうじゃないが、休憩したら運転を代わろう」
「別にベルリンまで運転しても構わないが」
「そういうわけにはいかないよ」
田崎は煙を吐いて、薄く笑った。

小さな食堂があった。
僕は車を止めて、
「コーヒーでも飲むか」
と言った。

食堂は人気はなく、身体の大きなドイツ人の女が、給仕をしている。
東洋人が珍しいのか、ひどく愛想がない。
田崎はコーヒーをふたつ頼み、置いてあった新聞を広げる。
「ドーナツも食べるか?」
「要らない。甘いもの苦手なの知ってるだろう」
僕が答えた。
「知ってるけど、嗜好が変わったかも知れないだろ」
田崎はそう返し、女が持ってきたコーヒーを飲んだ。

「嗜好が変わったといえば、結城さんも、最近は変わったな」
田崎は続けた。
「誰のせいだろうね」
「僕のせいだとでもいいたそうだな」
「わかってればいいんだ」
田崎はほお杖をついて、
「君が乗るはずだった列車が事故を起こした。想像しないか?もし君が乗っていたら・・・って」
「もし、なんて考えても仕方がないだろう」

「君は変だと思わないの?どうして、結城さんにはそんなことがわかるのかって。あのひと、これから起こる筈のことが、予知できるんだろうか」
「・・・・・・できるんだろうよ」
「気持ち悪くならない?」
「ならないよ。結城さんには、ただ、わかるんだ。それだけだ」

結城さんには黒い翼さえある・・・。
そう思ったが、口には出さなかった。





inserted by FC2 system