「なぜ貴様がここにいる」
僕が尋ねると、
「ボディーガード。ベルリンまでお供するようにいわれてる」
「結城さんが?」
「過保護だな。いつものことだが」
珍しく批判めいたことを口にする。

「事故のことは知ってるよ。さすがの結城さんも堪えたんだろ」
なんでもないことのようにいい、
「出発は昼過ぎでいいか?実は腹が減ってる」
「構わないが・・・車で来たのか」
「まあね。慣れない運転は疲れる」
田崎は肩をすくめた。

席に座り、メニューを広げる。
「ブルストと、ビールを飲みたいが、残念だ」
「別に僕が運転してもいいよ」
「本当か?じゃあ、頼む」
田崎は急に晴れやかな顔になり、ドイツビールとブルストを注文した。

「観光客じゃあるまいし」
三好が皮肉ると、
「そっちこそ、新婚旅行じゃあるまいし、よくも結城さんを独占したな」
田崎が皮肉で返す。
新婚旅行といわれて、三好の白い頬は赤らんだ。
実際、この3日というもの、新婚と変わらない生活ではあった。
夜昼なく抱かれ、結城さんの腕の中で目を覚ました・・・。
思い出すだけで、頬が熱くなる。

「結城さんは忙しいんだ。貴様のワガママにつき合わせるな」
ブルストをナイフで切りながら、田崎は言った。
「・・・そういうわけじゃない」
だが、溺れたのは事実だ。
三好の反論は弱かった。
結城さんが忙しいのはわかりきったことなのに。
どこか、たががゆるんでいるのだろう。

「のんびりしすぎたな。そろそろ出よう。運転してくれ」
時計を見ながら、田崎が言った。




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