部屋はちょうど隣が空いていたので、隣の部屋になった。
安宿なので、狭い部屋にベッドとテーブルと椅子があるきりで、余分な装飾はなにもない。
廊下の先に、共同のトイレとシャワーがついている。
一階が食堂になっており、二階以上がホテル。4階建ての、よくある造りだ。
<ネズミ捕り男亭>は、シーズンオフで人気もなく、他に泊り客は3人程度しかいなかった。
おまけにこの雪だ。

それにしても、変なことを言ってたな。

嫌な天気だ。今夜は事故も多いだろう・・・

結城さんらしくない、不吉な言葉だ。まるで何かが起こるのを知っているみたいに。

僕はベッドに座り、壁にもたれていた。壁の向こうには結城さんがいる・・・。
そう思うだけで、頬が熱くなるような気がした。

さっき、結城さんは、
「疲れているだろうから、今夜はゆっくり休め」
と言った。
部屋を別に取ってくれたのも、その配慮だろう。
僕は別に一緒でも良かった・・・。結城さんに会うこと自体、3ヶ月ぶりだ。
一秒でも長く、側にいたいのに。

日が暮れて、部屋の中は一層薄暗くなった。
そういえば、食事はどうするんだろう・・・。
結城さんはたぶん、部屋まで運ばせるだろうから、僕はひとりで食堂か・・・。
そう思っていると、ドアをノックする音がした。
「はい」
ドアを開けると、結城さんが立っている。
「どうしたんですか?」
「食事に行くぞ」
「食堂に行くんですか?」
「他にどこに行くんだ?」
皮肉げに顔をゆがめて、結城さんが問い返す。

何だか今日は意外なことばかりだ。
僕は嬉しくなって、肩をそびやかした。
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