田崎に運転を代わってもらい、僕は助手席に乗り込んだ。
いつの間にか眠っていたようだ。
気づくと、日が落ちかけていた。
何気なくハンドルを見て、はっとした。
右手に白い手袋。
僕はどきりとして、顔を見た。
「起きたのか?もうすぐベルリンだ」
「田崎」
「手が冷たいから手袋をしたまでだ。どうかした?」
「紛らわしいマネを」
「目を閉じて、真木」
田崎が左手で僕の瞼を触ると、眼が自然に閉じた。
催眠暗示だ。
「馬鹿な真似はよせ」
「そう怖がるなよ」
田崎は苦笑する。
車が停まり、そして、唇に熱い息がかかった。
「気をつけていけ」
声ががらりと変わる。
結城さんの声だ。
長いキスが終わると、車は再び走り出した。
僕はハンドルを見る。もう手袋はしていない。
長い、神経質そうな指。
顔を見ると、田崎だ。思わず吐息が零れる。
「結城さんじゃなくてがっかりした?」
「・・・別にそういうわけじゃない」
「結城さんはいつも君の側にいるよ」
謎めいた言葉を吐いて、田崎はハンドルを切った。