「真島。あんたと外で会うのはまずい」
『わかってるって。だから携帯で話してるんだろーが』

「ストーカーかよ。さっき別れたばかりだろ」
『次に会う約束をしてないからな』
「てか、電話番号・・・いつの間に・・・」
『情報化社会だからな。ヤクザを舐めんなよ』

高級車の中で、真島はのんびりくつろいで電話している。
昔はしがない街のジゴロだったのに・・・出世したものだ。
それとも、別人なのか・・・。
サングラスをかけて口髭を生やした様子は、全くの別人だ。
サングラスを取って髭をそれば・・・似ていなくはない・・・。

「俺はあんたが、俺の恋人なのか確かめたかっただけだ。なにも覚えていないなら、もうあんたに用は・・・」
『あんたになくても俺にはある』
「悪いけど、忙しいんだ・・・」
『明日の夜、ドライブでもしよう。7時に迎えにいく』
「真島・・・無理だよ」
『約束したぞ。じゃあな』

高級車はゆっくりと滑り出すように走り出した。
窓を閉めると全身黒塗りの、いかにもな車だ。
強引だな。それに、自信満々だ。
真島も、自信だけは過剰だったっけ・・・。

「誰と話してるんですか?神永先輩」
波多野がベランダに顔を出した。
赤ん坊を抱えている。
「ちょっとな。悪いけど、なんか服貸して。ラフなのでいいから」
「乱闘でもしたんですか?随分やられましたね」
「まあね。いつものこと。ちょっと強盗を取り押さえてね・・・」
適当な作り話をして、俺はベランダから中に入った。

「これでいいですか?ウニクロですけど」
「いいよ。ありがとう」
実井に出してもらったシャツを着て、俺は振り返った。
「みのる、今日は機嫌が良くて、ちっともぐずらないんですよ」
「お前が子育てとはな・・・」
「神永さんは前世の僕をよくご存知みたいですね・・・」
「あ、ごめん。そういう意味じゃない・・・って、そうか・・・はは」
「きゃっきゃっ☆」
「あ、みのるが笑った。神永さんの笑いにつられたみたいですね」
実井が嬉しそうに笑った。
こうしてみると、実井だって、性格も全然違うような気がする。
「さっきの電話、真島さんですか」
ぎく。
「みのるのこと、なにか言ってました?」
「ああ、違うんだ。なんでもない・・・」
「真島さん、時々外に車停めて、様子を伺ってるみたいなんですよ、ちょっと怖くて・・・。真島さんいいひとだけど、結局ヤクザなんだなぁって・・・」
その言葉は胸に刺さった。
そうだ。真島は所詮、この時代ではヤクザなんだ・・・。







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